だが、古典はあくまで古典でもある。古典の考え方に囚われて「今」を見ると、新しい動き、今まで見過ごしてきた動きなどを見誤る場合が多い。特に経済学のような発展途上の学問では、今でも日々新しい理論が生まれ淘汰されている。
この本は古典的な経済学理論の役割を強調する反面、最先端の経済学で注目を集めているような論点についてほとんど触れられていない。特に80年代以降に経済学研究の主流になったともいえる契約理論、ゲーム理論、制度経済学、などについてほとんど一言も触れられないまま「今」の日本経済について強い論調で論じているのは驚きですらある(80年代以降のそのような動きを経済学の「静かなる革命」と呼ぶ人までいる)。
金融機関の機能とマクロ経済との関係、各種の情報非対称性と新しい形の「市場機能の萎縮」など、「いまだ通説が確立していないから」という理由だけで無視し、古典的(入門レベルの教科書的)な理論に固執し教科書的な処方箋のみを是とするならば、現段階で実用性がないほど未熟だと酷評される経済学は永遠に進歩しませんぞ。(経済学は、経済危機とともに発展し、新たな理論を生み出してきたのでは。)
学史を学ぼうと考える人には入門の入門。
ただし、本書では抜け落ちている重要な学説もあるので注意が必要。
それ以外の人には、現代経済を考える上でも
過去の歴史が非常に重要である事を思い起こさせてくれる良書となる。