この内容だと、タイトルが間違っている、と思った。著者は「自己」や「生きることの意味」への、徹底的な探求者である。それは認める。だからこそ、彼の考えを「日常生活のなか」で真に生かすのは、ほとんど無理な話である。つまり、出家が必須となる。仕事や家庭から自由にならない限り、彼の発想に従うことは、たぶんできないだろう。この点だけをとってみても、著者は釈尊(ブッダ)や道元の思想を十分に理解しているといえる。仏教の核心に迫っている。だからこそ、万人にはすすめようもない。難儀な話である。
また、この本は、はっきりいって難しい。「思想・哲学書」と称すのが、もっとも適当だ。読んでいて、実存主義なり社会システム論なりを思わせる部分が、たびたびあった。そうした考え方になじみのない読者は、途中で投げ出したくなる可能性が高い。本書が想定している仏教は、良くも悪くもエリート的だ。それは仏教という宗教が内在させている本性でもあるので、仕方がないのかもしれないが。