この本の最大の特徴は、臨床における「失敗」に焦点を当てている点です。
著者が書かれているように、大半の心理学やカウンセリングの本は、紹介事例が「うまく」経過したケースである場合が多く、内容も「教科書」的に記述されているものがほとんどです。しかし、実際の臨床現場では、知識として学んだはずの理論や技法がそのまま生かされてうまく行くことは少なく、むしろ戸惑うことが多いはずです。
その戸惑う部分や思わず陥る「落とし穴」を、カウンセラーに生じる「逆転移」という観点から、明確なポイントとしてまとめて下さっており、その点が、一般の学習本と大きく異なります。目から鱗が落ちること、請け合いです。
最後に記されたエピソードがとても感慨深く、読後感をより一層爽やかなものにする良書だと思いました。