この作品をBlu-rayで鑑賞できる幸せ
★★★★☆
19世紀初頭のロンドンをこれほど仄暗く、ゾッとするほど魅力的な色彩と質感で描けている作品は現時点で他にない。スプラッタなのにコメディ、さらにサスペンスでミュージカルという「超絶ハイブリッド」な、作りこみの究極ともいうべき難しいジャンルである。もちろんティム・バートンならではの題材であるのだが、水を得た魚というか、よくぞここまで美しく暗い舞台をこしらえたものだ。
特典映像も豪華。美術やメイキングはもちろんのこと、原作となったミュージカル周辺についての説明がきっちりと収録されており、作品背景もよくわかる(あくまで一般論ですが、ミュージカルやオペラの場合、ある程度の予備知識があったほうが作品を楽しめます)。作者のソンドハイムはオスカー・ハマースタイン2世に師事し、若くして『ウエストサイド・ストーリー』の作詞を手がけた作曲家でもある。ただし、比べてしまうのは申し訳ないが、バーンスタインのように前衛をきっちりと意識したメロディメイカーというより、この『スウィーニー・トッド』に限っては、歌詞のおもしろさに対して音楽そのものは地味めで、どうも印象が弱い。逆に言うと、何度も繰り返し聴いてみたくなる曲が多いということでもあるのだが。ぜひ、Blu-rayでの鑑賞をお薦めしたい。主演のジョニー・デップは、もともと俳優よりもさきにミュージシャンを志しただけあって、実にのびのびと歌っている(意地の悪いことを言えば、中途半端に上手すぎる気も)が、サシャ・バロン・コーエンの芸達者には目を見張る。さらに、セリフの挿入や動きのある掛けあいに重きが置かれているミュージカルのせいか、アラン・リックマンとヘレン・ボナム=カーターの役者としての引き出しの多さがよく活きている。ボナム=カーターの歌いながらの身体の動き、決めのポーズのかっこよさ。そして、歌というよりも声フェチの(リックマンの声は特徴があって魅力的です)私は、下手に絶唱型のミュージカルナンバーを延々と聴かされるよりも、こういう作品のほうが好きだったりします。
個人的には、コリーン・アトウッド担当の衣装のすばらしさに目を吸い寄せられた。この人、ティム・バートン作品では『シザーハンズ』『スリーピー・ホロウ』『アリス・イン・ワンダーランド』、他の監督とは『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』『SAYURI』『シカゴ』『NINE』といった作品での衣装を手がけている。彼女の次作が楽しみ!