霧の中のように物語の世界が見えない
★★★★☆
初めに言っておきます。
映像を思い浮かべながら、読めば面白い。
でも、ちょっと飛びすぎているという印象。
まるで霧の中、手探りで方向を探っているような感じです。
次元を支配する「無限王朝」に滅ぼされた国の跡継ぎを、同盟国へ送り届ける。
依頼されたのは「無限王朝」に敵対する忍者集団「光牙」の忍び、零牙とその仲間
行く先々で訪れる妨害者たちを打ち倒し、彼らは同盟国へたどり着けるか。
そういう話なんだろう。
忍者同士の戦いが主なのだが、一般の人たちと戦力の次元が違いすぎる。
こんなに強けりゃ、国なんて、簡単に制圧できるんじゃないかって思わされるし、無限王朝が、そうしない理由が見えない。
確かに次元の支配者という記述はあるけど。
また、同盟国が無限王朝と敵対していられる理由が見えない。
何か強力な対抗手段をもっているのか?
光牙の忍びは「人の世界」の記憶を持ち、それを取り戻すために「無限王朝」と戦っているわけだが、勝てば「人の世界」を取り戻せるのか?という疑問もある。
直接敵対する忍者達の姿は見えるが、その後ろにいるはずの「無限王朝」の姿が全く見えてこない。
だから、どうしても話が表面だけで展開している印象を受けてしまう。
忍者同士の戦いが、奇想天外で、想像もつかないっていう事もある。
だから忍者なのかもしれないが。
蛍牙と真名姫の泣けるエピソードもあるけど。
続編がないと、単独では少々苦しい作品だと思います。
前作、機龍警察(ハヤカワ文庫JA)が傑作だっただけに期待していたけど、少し残念だ。
これは演劇風「仮面の忍者赤影」だ!
★★★★★
城を落ち延びた少年とその姉を助ける四人の光牙と骸魔六機忍の対決!舞台となるのは日本の戦国時代に似たパラレルワールドらしい。光牙の忍者達はいずれも現代日本の出身らしいが、はっきりした記憶は無いらしい。対する骸魔達は、全く異なるパラレルワールドの出身らしい。そして何故かは判らないが、この世界へは他の様々なパラレルワールドから様々な者が大部分の記憶を失って来訪するらしい。もしかしたら、ナルニアやラヴクラフトのドリームランドみたいに夢で訪れる世界なのかも知れない。
帯に「山田風太郎の〜」とあったが、テイストとしては山田風太郎ではなく横山光輝。確かにこの種の奇想天外なバトルものの元祖は山田風太郎だが、そこでの山田風太郎のテイストは「1.歴史の隙間を埋める話で必ず歴史上の事件か人物とリンクしている。2.くだらない理由、又は仕掛けた者達以外にはまるで無価値な動機。3.忍者の能力の多くが生物学的なミュータント的なものでエログロに通じる。」だが、ここから奇想天外なバトルの要素を抜き出して忍者ものや超能力ものを描いたのが横山光輝で、更にその横山作品のテイストをより荒唐無稽にしたのが特撮テレビの「赤影」だった。骸魔六機忍が霞谷七人衆と被って見えてしまった。
そしてこの作品の筋立ては登場人物や舞台となる場面が極めて限定されていたり会話主体に話が進んだり、小説や映画のものと言うより演劇のものに近い。このまま舞台化すれば中々面白いものになるだろう。
めくるめく奇想に込められた存在への問い
★★★★★
容赦ない。言葉の城塞だ。でも流さないで黙読していく。ぎっしり充填された言葉に、リズムがあるからだ。
人物像は極限まで単純化されている。そしてそれゆえに、様々な夢幻的な仕掛が、場の転換によって自由に出現し、緊迫した場面の数々を展開する。眼を奪う奇想に引き込まれる。
夜の胡蝶の舞いが良い。日蝕の下の戦いが冴えている。針の雨が怖い。
しかもそこに「記憶」の謎が絡む。それは葛藤と懊悩を生む。読みながら、考えされられる。
「どんな暮らしを送っていたのか。家族はいたのか、いなかったのか。誰かを愛していたのか、いなかったのか。私は―どんな人間だったのか 」
人間の実存の問題そのものではないか。
「そうだ、宝だ。それがあれば生きていける」
どれほどのおもいが込められているだろう。
ぎっしりと敷き詰められた言葉の石畳を黙々と辿ろう。言葉のうねりは自ら立ち上がり、広がり、遥かに延びる長城のように成長している。自己とは何か? と問う地点に届く。独自の手法で物語の空間を現出させることに成功している。
著者の胸の中で躍ってきた夢想を、制約を加えずに生のまま言語化するほど、この手法はうまくいくのだろう。だから容赦なく書いた著者の決断は正しいと思う。
一気に引きずり込まれた!!
★★★★★
山田風太郎氏の大ファンではあるが、風太郎先生の見せ場と本作のそれは違うところにあると思う。
本作はキャラクターの立たせ方が特に上手い。
なかでも女性のキャラがひときわ興味を惹かれる。
「機龍警察」でも思ったが、この作者は会話の粋で楽しませているようだ。会話でどれだけ読者のド肝を抜けるかを狙ってるんじゃないかと思う。
特に敵役の会話が酔狂過ぎてブッ飛んでいる。異世界の邪悪なものの“異質さ”を、一行のセリフだけで伝わらしめる技法はスゴイ。
ゴシック調と謳われているとおり、重厚感ある文体が物語の世界に一気に引きずり込んでくれる。
しかもその文体のなんとも心地いいこと・・・
帯の惹句に惑わされる事なかれ
★★★★☆
帯に東雅夫氏が山田風太郎さんを引き合いに出していますが、
風太郎さんらしさは忍者バトルという点のみ。
山田忍法帖を期待すると肩透かしを食らいます。
引き合いに出すとすれば,TV版の「仮面の忍者赤影」「ライオン丸」シリーズ
そして「変身忍者・嵐」といった特撮時代劇。
前作とは文体も大幅に変わり最初は戸惑いましたが、
作品の内容に応じたかき分けができる著者のプロフェッショナルぶりに脱帽。
今作ももちろん堪能しましたが,次作にも期待大です。