医学の可能性と限界をしるし、生活者と医療とのかかわりを懇切に描いた本書は、精神科医としての長年の経験から生まれた。しかし、そこにあるのは、指南的役割でも医の倫理の類でもない。医師と生活者のあいだにたとうとする柔らかい姿勢である。(カバー記載抜粋)
血液型性格学には何が潜むか?
★★★★★
血液型性格学が話題にされるたびに、いつも苦虫を噛み潰したような思いを味わう。それもあって、本書の「血液型性格学を問われて性格というものを考える」一篇を、わくわくしながら読み進めた。著者ならば、この鵺のような問題をどう捉えるのか、大いに楽しみであった。
なるほどと思える部分が大きかったが、肩透かしを食ったと感じさせられる部分もあった。
まずは以下のように問題が再設定される。
>ABO型血液型の存在そのものに疑いはなく、怪しいのは「性格」のほうである。そして、性格学というものは、ABO型血液型性格学と、まあおっつかっつのものである。(P.48)
問題は、「性格」のほうにある、と明確に指摘されている。著者は、様々に「性格」を定義する試みを挙げ、その難しさを述べる。そして、<たいていの人の「性格」はそのつどの対人的な場によってきまる。(P.59)>と締めくくる。著者の「精神医学」の姿勢そのものである。かくて問題は、ABO型血液型は「性格」を決定するかという問題は、解消される。
では、なぜわが国ではABO血液型性格学が広がっているか。<わが国で宗教の力が大きくないことと関係がある(P.60)>とし、宗教の<対人的配慮を簡単にする>側面が、ABO血液型性格学により補われている、と著者は考えているようだ。だが、そうも考えられる、ということ以上のことが言えるかどうか、いささか疑問である。少なくとも、より多くの裏付けが必要だと思う。
本書には他に、認知症、禁煙、禁酒、中医学、インフルエンザについての文章が集められている。いづれも予想外の事実と接することができる文章である。一読を薦める。
麻黄湯(ツムラ27)をタミフル代わりに買っておこ
★★★★★
医者と弁護士の報酬は成功報酬ではなく努力報酬だ、と書いてあったんです(p.108)。
なるほどな、と。
これは昔の(平成大不況前の)サラリーマンも似たようなものだったと思うんですよ。きついノルマを課せられていたような人もいたかもしれませんでしたが、基本はのんびりとサラリーマン生活を送れました。
でも、いまは公務員とか専門職を除いては努力報酬(とにかく仕事すれば結果だせなくてもOK)の人って少なくなりましたよね(もっとも、だんだん難しくなってくるかもしれませんが)。
そして成功報酬という結果を出さなければならない人たちの報酬が少なすぎる、というのが今の社会の問題なのかな、と。つか、本来の意味での成功報酬に値いしないような仕事にもノルマ給の考え方が適用され、変動費扱いになっていますよね。
あと、麻黄湯(ツムラ27)がタミフルと同じ効果があるという説が医師の間では流通している、というので後で買っておこうと思いました(p.174)。
また、タバコや酒は限界嗜好物質といわれ、それはストレスをくいくらゼロに近づけようとしてもゼロにはならず、それをゼロにしようとする行動はますます強い乾きを生む、というあたりもハッとしました(p.72)。
ほんまはこうすればええんやけどね
★★★★★
雑誌”みすず”(もちろんみすず書房)の不定期連載をまとめたにしては高い(単行本化にあたり、大幅に訂正したところがあるとしても)とか、過去の著作との重複個所があるとか言わずに、読んでみましょう。
多少ならず新しく考えられたことが加わっていますし、書き下ろしのインフルエンザについての章は、今後予想される流行にそなえて必読といえましょう。
阪神大震災と神戸のH1N1を対比するなんて、なかなかできることではありませんから。それに著者は精神科に転じる前はウィルス研究をされていたのです。
とはいえ、内容を鵜呑みにはしないこと。そうすると、単なるいかがわしい民間療法の本になってしまいます。長老の経験から得られるありがたい知恵をいただくためには熟読が必要だと思います。