父はジゴロで、母は自殺――あまりにも陳腐!なんという紋切り型!
それだけではない。
父なんて嫌いさ、でも父は僕にご執心の様子、だから立場は逆転さ――唖然とさせるほどのエディプス・コンプレックス・ファンタジーである。
救いはあるのか?さあ、どうだろう。
「クリスマスの思い出」は、おばあちゃん従姉弟とその飼い犬とのつつましいクリスマスをピュアな視点で描いていたが、本作のクリスマスは両親が離婚して母方の実家に預けられている6歳の「僕」が、長いこと離れて住んでいた父親とすごした豪奢なクリスマスが舞台になる。
だがそのクリスマスには、おばあちゃん従姉弟や飼い犬との思い出のような暖かいものではなく、いっしょに住むことがなかった父親に対する冷たい視線、父親に打ち解けない頑なな「僕」の姿しかない。
短いながらもたくさんの印象的なエピソードが重ねられる。
屋敷で開かれるパーティ、ツリーの元に積み重ねられたプレゼントの箱・・・。ジゴロめいた身分で豪奢な生活を送る父親への批判的な視線、プレゼントで「僕」の気を引こうと躍起になる父、「僕」がいたずら心にツリーの下に飾った母親の写真にショックを受ける父・・・。
ホワイトクリスマスを夢に見(物語の舞台はアメリカ南部州なので雪が降ることはない)、サンタクロースの存在さえも疑わない無邪気な「僕」の一方で、父親に対する複雑な思いが印象に残る。
村上春樹さんは『クリスマスの思い出』の裏側だと喩えておられますが、そうとも取れると思います。最後の父の心情を思い浮かべると心が痛みます。今作も、イノセント・ストーリーの系譜は受け継がれていると言えるのでは。