最初に本書を読んだのは、30年前、中学生だった。そのとき、信吉氏は兄のような存在だった。一生軍艦好きで、慶応を卒業し、一旦銀行に就職してから短期現役士官の道を選んで、海軍経理学校に学び、カッターを漕いだ。鉄アレーを捧げながら立ち泳ぎをしては、頭まで沈みながらも最後までがんばって負けなかった・・。しかも茶目である。どうかすると、甘えん坊にもなる。「こんなオフィサーになりたい」という人物だった。「理想」などというには、あまりに身近な存在だった。
私自身、慶応を受験し、銀行に就職し・・いま気付いたが、相当この信吉氏の影響を受けたのかもしれない。
いま二人の息子をもち、父になりようやく信三先生の気持ちを実感できるようになってきた。戦地に赴く子に、「私達夫婦は、きみに完全に満足している。もし子を選べといわれたら、何度でも君を選ぶ」との書簡を渡す気持ちも、いまはわかる。そんなキザな、と30年前思ったけれど、いまは、これ以上の表現ができるかな?と考えてしまう。