前作が余りにも素晴らしかっただけに・・・?
★★★★☆
ライナーノーツにトランスクリプションとある。この言葉は通常は「テープ起こし」という意味で用いられ、講演会やシンポジウムそれに対談などの音声を文章化することをいう。音楽の分野では特にクラシックで一般的で、オーケストラやオペラ等(の楽譜)を高名なピアニストが演奏するピアノ・トランスクリプションものが幾種類も発表されている。今回のケースは、新作の内容をジャズミュージシャンやボーカリストに聞かせて取り上げてもらうための、業界内部向けの試供盤といった性格を持つが、こういうものもトランスクリプションと呼ぶようだ。殆どが無名作家による作品とのことだが、過去にリリースされたとはいえ一般のリスナーにとっては未発表に等しく、前作『二人でお茶を』の感動の再現がなるかと、かなりの期待を持って購入した。
前作の素晴らしさには理由がある。デモ録音ということで緊張することなく、彼女は普段のままの様子で伸び伸びと歌い込んでいる。まるでお隣のお嬢さんが遊びに来て、自宅のピアノの横で歌ってくれているような錯覚に陥るほどだ。伴奏がピアノのみというのも却って好ましく、音質もことのほか良い。ところが今回の作品は全曲が新作であり、また作家の楽譜をミュージシャンに紹介するという性格上、歌い手が個人的に手を加えることなどは不可能であろう。新人でもあり譜面に忠実に歌うことは当然だろうし、いささか声が硬くなってしまうのもやむを得ないところか? 後年の彼女の声に含まれる「甘さ」を求めるのは酷というもので、レコードデビューの数年前の録音(20歳そこそこのはず!)ということを考慮すると充分に上手く、すでにこの頃から「ベヴァリー節」が覗える。
さて、この「Lonely and Blue」をお勧めできるかどうかは非常に悩ましいところだ。プラス材料としては、(1)一般ファンにとっては初耳の曲ばかり (2)前作同様ジャケット写真が素敵 (3)なによりもベヴァリーの作品である。マイナス材料としては、(1)ベヴァリーらしさにやや欠ける (2)10曲合わせても25分足らずなのに2800円! (3)前作と比べるとかなり原盤の状態が悪く雑音が多い。
前作(☆6つ?)が余りにも衝撃的だっただけに期待も大きかったのだが、一般的にはこの程度でも『満足じゃ!』と言わなければならないのかもしれない。なにしろ、これを合わせても彼女の作品は8枚(今のところ?)しかないのだから・・・。