古武士の<遺書>
★★★★★
昨年(2009年)、「日米間には<核持ち込みの密約>があった」と証言した元外務事務次官(その後、駐米大使)の回想録。
もっとも、著者は政府の欺瞞を暴くためにあの証言をしたのではなく、その背景には――現実に立脚した議論をしないとこの国が危うい、という焦燥感があったことは本書を通読すれば判然とする。
アメリカのゴリ押しともいうべき貿易摩擦にいきどおり、外務省の後輩たちの対中追従外交を叱り飛ばし、過剰な謝罪外交の象徴ともいうべき「村山談話」の愚を斬って捨てる……。
その姿はまさに古武士然としている。
圧巻は、中国の覇権外交や北朝鮮の核開発、さらにはアメリカの核の傘の綻びに触れ、<自主防衛>を唱える結論部だ。アメリカがそうした話し合いを「あくまで拒否するのなら、在日米軍基地の全廃を求め、併せて全く日本の独力によって通常兵器の抑止力に加え、フランスの如く限定した核戦力を潜水艦を用いて保持するというのが論理的な帰結であろう」と書く。
日本人の気概に満ちた本書(とりわけ下巻)はまことに<遺書>と呼ぶにふさわしい(村田氏は本年3月逝去)。
最後に、版元にひと言。
《李恩恵》が「李思恵」、《飯倉》が「飯食」、《古森義久》が「小森義久」etc、いまどき珍しく誤植だらけなのにはウンザリした。増刷時には徹底的な校正作業を望みたい。