書物と云う美酒
★★★★☆
本書を読みながら、ショーン・コネリーが演じていたころの一連の007の映画を思い出していた。
まさに上質のエンターティンメントである。どちらにも泥臭さが一切ない。映画には、様式化された荒唐無稽さがあった。この作品には、ひょっとしたら、と考えさせる論理性がある。
とはいえ、扱われている問題は、決して軽いものではない。例えば、ローマンカトリックの正統性の問題はヨーロッパの歴史と深くかかわり、様々な場面で議論されてきた。ヨーロッパ諸国の間に、普段は顔を出さないが、時として気になってくる問題があるのも事実である。中国にも当然歴史の闇がある。清の乾隆帝が作らせた『四庫全書』とは結局のところ何であったのか? 興味深い記述がある。昭和天皇の戦争責任にしても、また然り。さらに、それぞれの問題の触手は、思わぬところまで伸び、時として摩訶不思議な形でつながっている。
書物は、様々な問題が孕まれた容器であり、いかなる問題も入れられぬものはない。一冊の書物を軸として、この世界の歴史を背負った問題群をブレンドし、一篇の美酒として取り出す作者の手並みの、何と鮮やかなことか。書物の愛好家すべてに、ぜひ、この『書物狩人』と云う美酒を味わってほしい。
続編期待
★★★★★
初めて読む作家だが書名に惹かれて思わず買ってしまった。読んでみたら、これがまたすごく面白い。虚実とりまじえて、歴史と書物が絡んですごく、自分好み。ナポレオンの本好きの話は、古川日出男の名作『アラビアの夜の種族』でも使われていたけど、ヨーロッパ、中国、日本の近現代史をうまく題材にしている。
それに加えて、登場人物が魅力的。主人公のル・シャスールだけじゃなく、彼を助ける女性、レディ・Bもいい。
続編が読みたい。それにほかの作品も読んでみよう。
発想がおもしろい!
★★★★★
書物を極秘に手に入れる仕事という発想が面白かったです。
続きが楽しみです。
続きが出たら読みたいです。
次も読みたい。
★★★☆☆
古本好きにはたまらない内容なのかと思いきや当初の思惑からは逸れてしまったが、なかなか興味深い内容だった。『書物狩人』とは世間に出れば大事になりかねない秘密をはらんだ本を、合法非合法問わず、あらゆる手段を用いて入手する本の世界の究極的存在なのだそうである。だから、只の本好き、本の虫などではなく、時には命を危険に晒すこともあったりするのだ。というわけで、ここに描かれる本の話は例えばジョン・ダニング「死の蔵書」で披露される古本の書誌学的な内容とは少し違ってくる。ここには、スティーヴン・キング「呪われた町」の初版本がいくらになるかなんて話は出てこない。本書の中に登場する稀覯本をめぐるミステリーで暴かれるのは、いわゆる歴史の暗部というやつだ。誰もが知っている歴史の常識が快く、豪快に覆されてしまう。こういうの大好き。高橋克彦「総門谷」や「竜の柩」もそうだったが、 こういった歴史の新解釈というのが、ぼくは殊更好きなのである。そこには伝奇的な匂いも感じられる。だから、内容的には本書はあの「インディ・ジョーンズの冒険」と同系色なのである。ここに紹介される四つの物語には、それぞれ一冊の本が登場する。一応ミステリなので詳細は書かないでおくが、みなとても興味深い。作者のあとがきによれば『物語を構成する要素はほとんどが事実』だということで、う〜ん、まだまだこんなに知らない事があったのかと驚くばかりだった。不満もあるが、次がでれば、また読んでしまうと思う。
静かなる自信
★★★★★
すべてはフィクションなのに、地に足の着いた、リアリティを感じられる要素がそこかしこに詰め込まれている。著者は初めて自分のホームで作品を書いたのかもしれない。著者のほかの作品のように、エンターテイメント性を高めようとして生じる上滑りした感覚は感じられない。
石版や粘土板、パピルスの時代から存在する、記録を残したい、誰かに伝えたいという人類の欲望は、本という形を持って我々のそばにいる。その記録は、幾星霜の月日を飛び越え、普通ならば知りようも無い過去の出来事を教えてくれる。
同時に、本はただ楽しみを与えてくれるツールでもある。そんな本に魅了され、命に代えても手に入れようという人物がいたとしても、ボクは不思議には思わない。それは、本を置くスペースが無くて、文字通り泣く泣く手放したことがある人間には共感してもらえるはずだ。
この作品は、そんな本に取り付かれた人間の物語。