時代小説ファンでない方にもお勧めの一冊です
★★★★★
早く先に読み進めたいのに、読んでしまうのがもったいない、そんな一冊です。12ある作品のうち、中には不幸に不幸が続いて終わるような話もあるのですが、主人公の女性は過酷な運命を凛として受け入れ毅然と生きる姿が印象的です。江戸の風俗、文化が緻密で繊細で美しい文章の中に散りばめられ、何度も読み返したい秀逸の一冊です。
手練れの技が冴えてます。
★★★★☆
本書は、6月7日『読売新聞』書評に「『隠れ家』のように
自分だけで楽しみたい」(本郷和人)と紹介されています。
その評言に相応しい珠玉のような短編が並ぶ時代小説で
す。
身分制社会での男たちの放蕩と生家の没落、そのため
の女たちの呻吟とやがて巡り来る幸・不幸、思わぬ結末
に時にはたじろぎ、そして時には爽やかな感動にひたりま
した。ただ、後半の転調が全体のバランスをやや崩した感
じがあって、そこだけは少し減点です。
特筆しておきたいのは、時代考証です。例えば「夕しぐ
れ」で記述された女郎の生態や、「万祝」で背景になった
江戸と木更津の船便の有り様など、細かいところまで行き
届いています。この辺が「隠れ家」と言われる由縁でしょう。
因みに、何回か登場する霊岸島とは隅田川河口の西岸
(現在の中央区新川)の旧名で、箱丁とは三味線の箱をも
って芸者の案内をする男性のことです。
美しい
★★★★★
ストーリー展開の面白さだけでなく、描写表現が特に素晴らしく美しく、洗練された文章にため息が出ました。淡々としているように思える一文一文を織り合わせると、こんなに色濃い情景を描き出せるものなのか。
12ヶ月それぞれのものがたりが味わい深く、主人公がいとおしく、江戸時代の話なのに匂いや音まで感じとれるようでした。
読ませるストーリー、繊細な江戸の描写が愉しい佳作
★★★★★
「オール讀物」連載中から愛読していました。
「女用知恵鑑宝織」という占い本を狂言まわしに、
12ヵ月それぞれ生まれの女の生き方がつづられていく短編集です。
(ちなみに標題の「春告鳥」は三月生まれの女)
すべてが大団円ではなく、女主人公が悲しみの底に沈んだままの話もあります。
けれども、どの話の女も与えられた「さだめ」を精一杯にいき、
どうしようもない困難にもただ流されることなく凛とした佇まいを見せていて、
読んでいてこちらも居住まいがあらたまる気がします。
杉本章子さん特有の江戸から時を隔てて抜け出てきたような言い回し、
「身性の固い男」「帳面(ツケ)買い」「裏白戸(ひきど)」「見世物台(サンズン)」
などもふんだんに鏤められ、
「門松(まつ)がとれても春先を思わせる陽気が続いていた。しかし鏡開きの日から寒返りした」
「うららかな日和で、茶屋の土間先まで日ざしが射しこみ、時折鳥影もよぎる。いかにものどかな春だった」
など、毎月読みきりとして連載されていただけに、季節描写もこまやかに凝らされています。
世話物好きなら、迷わずどうぞの1冊です。