「ウィスパー・ノット」の初演に注目!
★★★★★
ベニー・ゴルソン作の名曲「ウィスパー・ノット」。その初演、除幕式的演奏が本アルバムの〈華〉である。他の演奏はいささか平凡ながら、オープニングのこの壮麗な演奏を最大限評価してアルバムに5つ星を与えたい。
奥ゆかしいテーマを吹奏するトランペット、テナー、アルトの3ホーン。その端正なハーモニーは、さも粛々と述べられる祝辞の趣だ。冴え静まったムードに襟を正して聴きたくなる。
そこへ気負って躍り出る、ミュートをつけた若武者モーガンのラッパ。特別あつらえの背広に初めて腕を通した感覚だろうか。かなり衒(てら)ったフレーズと、鮮烈なサウンドで“式典”に錦上花を添う。まるで熟したザクロがぱっと割れ、赤紅の実が飛び出すようなソロ。紅顔の18歳、怖さ知らずの快演だ。
続くケニー・ロジャース(as)、ハンク・モブレー(ts)、ホレス・シルバー(p)は、厳かな曲調に逆らわぬ整然としたソロをリレー。ここではやはり、主人公モーガンのプレイがひときわ異彩を放っている。また、バックで丸っこい音色のパルスを送るポール・チェンバース(b)のうまさも聴き逃せない。
蛇足ながら、この名曲には秘話がある。以前、ゴルソンが雑誌で語っていたが、わずか20分で完成したというのだ。ふと浮んだメロディーを譜面にしただけのことらしい。霊感に打たれれば、まあそんなものだろう。ただ、曲名をつけるのに何日もかかったというのが、何とも皮肉……。