不安定な心象風景が巧に描かれているようでした
★★★★☆
芥川賞選評で珍しく石原慎太郎氏が評価していたので興味がわきました。
特に女性の作品に対しては厳しい意見が多いようでもありましたから。
そういえば出版時の宣伝でも大々的に石原・村上(龍)両氏絶賛とか
書いてありましたね。
すんなり読めて自然に感情移入できました。その巧みさが評価された
のでしょうね。社会に出る前の、あまり自分に自信を持っていない主人公の、
社会や異性に対する不安定な心象風景がよく描かれているようでした。
「ほーこんな感覚なんだー・・・」と主人公の心を疑似体験したようで、
とても面白かったです。
否定的な評価としては「つまらない」「それで?」というのが多いようですが。
そのような期待で読む小説ではないようです。
それにしても石原さんが高評価したのには驚きです。石原さんが改宗したのか、
それとも、まだまだ未熟な私が発見していない「何か」があるのか。
短い小説ですので、期間を置いてまた読み直してみたい魅力ある作品です。
短編のほうが良かった
★★☆☆☆
受賞した「ひとり日和」より「出発」のほうが良かった
ひとり日和は読んでて不快な場面もあって読後感が
あまり良くないのに対して出発のほうは
異文化交流?の中で自分の立ち位置を見直す日常が
なんとなく誰にでもあるでしょ?と思わせてくれる
佳作だと思います。もう少し知りたいと思わせるところが
いいですね☆
予感めいたもの。
★★★☆☆
「20歳の知寿と71歳の吟子さんが暮らした春夏秋冬」
帯のシンプルな言葉に惹かれて。
本屋で偶然手に取った一冊は。
最初から最後まで、さまざまな予感に満ちた一冊だったように思う。
第一に、発表当時24歳という同世代の作家が書く言葉は。
余計な飾りをできるだけ省いたような。
期待していた以上にずっと、素直に伝わってくる文章だった。
受賞から早数年が経ったことを考えてみると。
今はどんな言葉をつないでいるのだろうと。
ただただ率直に気になった。
第二に、今を生きる主人公たちの行き場のない不安が。
ありふれた日常の描写の中から、ありありと伝わってきた。
新たな変化に向けた、ささやかな予感とでもいうのだろうか。
ただしそれは、あくまでも“予感めいたもの”ものでしかなくて。
本の終盤では、少しばかりの消化不良も感じた。
とはいえ、作者の青山さんはまだ20代。
同世代の作家のこれからの活躍に、予感めいたものを感じるとともに。
他の作品もぜひ読んでみたいと、読み終わってみてあらためて感じた。
「出発」が面白い
★★★★★
会社の女性が言っていた。朝、満員電車の埼京線で新宿駅に到着したら、新宿西口ロータリーの喫煙所でタバコを1本吸ってから出勤するんです...と。私は、それを聞いたときこの小説にある「出発」という短編と会社の女性が重なった。あの場所は、新宿の始まりであるとともに、日本の中心を思わせる場所である。高層ビルに囲まれた都会のエアポケットなのだ。ある種の喪失感、閉塞感は「ノルウェイの森」の最後と重ならないか?pour voir le monde differemment.日常の視点を変えてみてみよう。千葉や埼玉、八王子から新宿まで出てきたのに、伊勢丹の敷居が高く感じられ、ついついユニクロで買い物してしまうようなあなた!はたまた、地方から東京に出てきて5月病(死語か...)になっている社会人1年生、2年生のあなた!何気ない日常の積み重ねが人生なのだと、あたりまえのことをあたりまえに教えてくれるだろう。この小説は。過激な場面や奇想天外なドラマだけが小説ではないと信じたい。味のなくなったガムをいつ吐き出そうか、小さいことの葛藤も小説にしようとすればできるのである。ここは作者の腕の見せ所といえるだろう。彼女は充分にその才能を発揮した。
人生の鈍行列車
★★★☆☆
受賞が数年前なので、まだリーマンショックが起こっていない時期だ。
非正規社員やフリーターの生活が今ほど脅かされていないので、
こうしたぬるい主人公の考えを多くの若者が体現していたのだろうか。
風景描写は絶妙に上手い。
鈍行列車から眺める淡々とした風景を、
時には同じように見えるであろう風景を、
とても美しい言葉で表現してくれている。
頭にもすんなりイメージが湧くので、読み心地も悪くない。
だからこそ、登場人物に魅力がないのが残念だ。
せめて母親の再婚を軸に、もっと親子の人間関係を描いて欲しかったと思う。
ひとりでも良いから、主人公が成長するきっかけとなった
エピソードを掘り下げてくれるともっと良くなったのになぁと思う。
ラスト、一見成長したように見えた主人公が
なぜまた既婚者を選ぶのか不思議だった。
私には、結局何も変わっていないように感じる。
それを伝えたかったのだろうか。