この写真集を撮った木之下晃さんは、『朝比奈隆』氏の一連の写真集で定評がある方で、特に指揮者の躍動感を撮らせたら日本トップの方だと思います。
モノクロの写真の配列が、シンフォニーの各楽章を聴いているかのように、並んでいます。最初の構えた位置から、徐々にボルテージがあがり、クライマックスを迎えた時は、全身からオーラと炎が見えるような写真が撮られています。意識的なブレがその音楽の凄みと躍動感を感じさせます。
その写真からクライバーの魂の音楽が聞えてきます。真正面から、指揮者を捉えた写真を見ていると、オーケストラの奏者の一員となってクライバーの棒にくらいついて演奏しなければ、という強迫観念まで気持ちの中で起こりそうな感じでした。
正統派ドイツ音楽の継承者であるカルロス・クライバーの氏によって「伝説の指揮者」達の時代が終わった、と感じました。
後半には、来日公演「ばらの騎士」の千秋楽と打ち上げの様子がカラーで載っています。
そして最終頁は……。
カーテンコールに立ったクライバーを舞台袖から捉えたカットでした。
クライバーが、「さあ、貴方もどうぞご一緒に!」と云った風に、こちらに大きく手を差し伸べています。
差し伸べられたその手を誰も掴むことができないまま、カルロスは逝ってしまいました。また、泣けました^^。