この作品「騎乗」でも主人公は騎手だが冒頭から職を失い、父親の選挙運動に
半ば強制的に協力させられるところからストーリーは始まる。
特筆すべきは、大人の男を主人公としてきた今までの作品とは違って今回の
主人公が17歳という若さであることだが、やはりディック・フランシスの小説の
語り手らしく、冷静で賢く優れた資質の持ち主で危なげがない。
実業界で成功を収め、政界に進出しようとしている父親はカリスマ性を持ち、
将来は国家元首の地位の可能性まであるほどの!!人物だが、主人公の青年とは
やや距離をおいた関係を保っており、多くを語ることなく教え導く。
二人はお互いに敬意をもって相手に接し、みだりに干渉することはしない。
男同士の友情の理想とも言えそうなこの父子の交流を軸に主人公の精神的な
成長が無駄のない簡潔な文章で描かれていく。
ミステリーとしては起伏に乏しく、クライマックスも意外とあっけない幕切れに
終わるのが残念。主人公の周囲の人間関係の描写もリアリティがあって楽しめるが、
親子に敵対する人物の造型には少々説得力がないような気がする。
ただ、主人公があきらめざるを得なかった夢(プロ騎手)への思いを語る場面などは
作家の実体験が投影されているのか、胸に迫るものがある。
やはりディック・フランシスの!小説世界の魅力には抗しがたい。