宮城谷・中国古代もの・短編集の中では最も好きな作品の1つです。
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宮城谷・中国古代もの・短編集の中では「孟夏の太陽」と並んで大好きな作品です。特に好きなのが、中国で初めて文字を作り出した商(殷)の高祖武丁を描く表題作と、周の東遷の混乱とその中で周を支えつつ、領民を新しい土地に導く名君主の活躍を記す「妖異記」「豊穣の門」の連作が感動的です。「目にも見える言葉」を得た武丁。著者は白川静先生の漢字学を崇敬しているので、その漢字の生まれる瞬間を小説にしてみたかったのでしょう。一方の西周から東周への激動の時代は、素材自体が面白いから、それを著者が腕によりをかけて料理した小説が面白くないはずがない。傑作です。
最近著者の「三国志」を読んでいます。文献が多くて史実の縛りが多い時代を描くのも著者は上手ですが、著者の本領は自由に想像・創造の翼を広げられる、それこそ文字がない、あるいはあっても文献資料が少ない古代もので一番発揮される、との思いを本書を再読して強く持ちました。
古代中国の物語
★★★★★
古代中国の物語の短編集です。表題作の沈黙の王は、甲冑文字を作ったと言われる、言葉を発せなかった王の物語です。中国文化の源流を知る上で、古代中国の物語を平易に面白く読むことができました。ただ、ルビはふってあるものの、人名の漢字の難解さのため、人物関係が時々わかりにくくなってしまうことがありました。しかし、解説にもある通り、著者は漢字に対して、並々ならぬ思いがあるようで、それだが、この作品の味にもなっているのだろうと思いました。
知っている人ほど面白い
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夏・商(殷)・周・春秋時代の話を5つ収録した短編集である。他の宮城谷さんの作品を既に読んでいるとさらに楽しめる内容となっている。
「沈黙の王」/商王朝の全盛期を創り上げた高宗武丁(コウソウブテイ)の話。北方民族の鬼方を討ったことや、傅説(フエツ)という卑賤な者を宰相にしたこと等が知られている王だが、ここでは独特の観点からその姿が描かれており興味深い。
「地中の火」/夏王朝期の伝説の人物、后ゲイ(コウゲイ)と寒サク(カンサク)の話。ゲイについては2つの伝説があり、太陽を射落とした伝説のほうが有名であるが、ここでは彼が夏王朝を一時的に倒したという伝説の方を採っている。
「妖異記」/西周最後の王・幽王と王后・褒ジ(ホウジ)を取り巻く人々の話。周の太史である伯陽と、王朝を助ける初代鄭公の桓公は、衰退する周の中でどのように生きていくのか。
「豊饒の門」/西周滅亡時に殉じた鄭の桓公の子・掘突(後の武公)は父の死を受けてどのように国を守っていくのか。春秋時代最初の覇者といわれた鄭の荘公の父の話でもある。
「鳳凰の冠」/斉の晏嬰、鄭の子産と同じ時代を生きた晋の名宰相・叔向(シュクキョウ)の話。
春秋以前
★★★★☆
かなり古い時代の中国を扱った短編集です。
当然記録も少ないでしょうし、
残っていたとしても簡潔な記録だと
思うので著者の中で読み解かれて
広げられた世界が描かれています。
その世界を受け入れられるかで
評価は分かれそうですが、私は
おもしろく感じました。
何度も読み返す味わい深い短編集
★★★★★
宮城谷さんの初期の短編集なんですが、たまたま書店で見つけて買ってしまいました。本の整理がまったく出来ていないので、家にあるのはわかっていながらおそらく今後一年くらいサルベージしないと出てこない本だったりすると稀にこうして再購買という事があります。
当然、かなり好きな本でないとそういうことは起こりえませんが。
さて。そんな訳で、宮城谷さんの「沈黙の王」。
古代中国ものの短編集です。収録作品は「沈黙の王」「地中の火」「妖異記」「豊穣の門」「鳳凰の冠」の五編です。「沈黙の王」は、商の二十二代の王の武丁が文字というものを初めて世界で制定しようとするまでの話。もちろんこの時の字は感じではなくて甲骨文字です。続いて「地中の火」はさらに時代をさかのぼって、夏王朝の初期にこれもまた初めて弓を使用した狩猟民族の王、后ゲイ(ゲイの字が出ません)と配下の男の話。「夷」という字の成り立ちに関わる話です。そして「妖異記」と「豊穣の門」は周王朝末期の名君の鄭君の友と、褒ジ(ジも出ません)の話です。褒ジについては、笑わないお妃様で有名な方です。
このような古代の話ですが、そこには宮城谷さん風に解釈された気持ちのいい絵巻物風の世界が広がっており、いつもながら気持ちをからりと晴れさせてくれます。じめじめとした雨が続くこの季節には、ちょうどいい感じです。ただ、割合と歴史好きの人以外には本当にマイナーな人物たちが主人公なので、そのあたりは留意してください。あ、でも、まったく知らない物語として読むとそれはそれで新鮮かもしれませんね。エピソードを知らない物語の方が新鮮かも知れませんから。