大切なもの
★★★☆☆
著者の7年ぶりの新刊。2001-06年に発表された5篇が収められている。
7年も沈黙せざるを得なかったのは、電撃の読者から見放されてしまったためらしい。2001年に発表した2篇が不評、04年に復活掲載した1篇も冷遇を受け、早川に移って何とか出版までこぎ着けたらしい。じゃあ、これから活躍を期待と行きたいところだが、どうだろう。私には、著者が方向性を間違えているような気がしてならない。ドタバタ、お約束、美少女、脈絡のないギャグなどが著者の持ち味なのだが、それだけで突っ走ってしまいストーリー性を放棄した結果、読者が置いてけぼりになっているように思う。簡単に言えば、わけのわからない話ばかりなのだ。
それでも、ある種の魅力があるのは確か。コアなファン向けの一冊だと思う。
そこはかとない80'sの香り
★★★★☆
例えば火浦功とか岬兄吾とかの80年代ドタバタコメディを彷彿させる文体とストーリー展開(まあ、あってないようなもんですが)を許せるかどうかで評価は決まりそう。私は懐かしさもあってOKだけども、人によっては「今さら・・・」かも。
異才7年ぶりの新作
★★★★☆
異才田中哲弥7年ぶりの新刊は学園を舞台にした連作短篇集。連作といっても『やみなべの陰謀』ほど緊密につながっておらず、ミッション系の学園であることがほぼ唯一の共通点。
本作品集の個人的ベストは第二話「ポルターガイスト」。登場人物が自らの恥を無意識に叫ぶとともに、回りが破壊され続けるというあほとしか言いようのない展開が続く、不条理そのものの怪作。
また、最も凄みを感じさせるのは第五話「スクーリング・インフェルノ」。贅を尽くした講堂で入学式をしていると学園が沈没を始めた!。地底へ落ちた主人公は、怪力お嬢様女子高生と出会ったことで悪夢のような状況へ巻き込まれることになるというあらすじ。意識の流れを効果的に用いた田中哲弥の超絶文体で、シュールでかつホラー的光景が描かれた作品。
全体的には、これまでのライトノベルレーベルから出た作品と比較すると、エンターテイメント色はやや後退し、不条理色が強く出ており、より大人向けになっている。
田中哲弥7年ぶりの新作:天才の帰還
★★★★★
「大久保町シリーズ」「やみなべの陰謀」を発表し、特異な文体とギャグセンスで一部に熱狂的なファンを獲得しながらも長く作家としては仮死状態にあった田中哲弥。その田中哲弥の新作がついについに発売されました。
本作「ミッションスクール」は学園を舞台に、スパイ小説・ホラー・ファンタジー・アメコミ・純愛ロマンという5つのジャンルの定型をもちいて書かれた作品集です。そう聞くとバラエティ豊かな作品群を想像するのですが、実はどの話も「よーこんなくだらないアイデアで小説書くよなー」といった種類の発想をもとに、説明するのも馬鹿馬鹿しいストーリーが展開するという点では同じです。
あえてジャンル分けするなら奇想というか不条理というか、とにかくまともな意味でのストーリーは存在しません。それではわけがわからなくて読むのが苦痛かというとそんな心配はありません。むしろわけがわからないのにぐいぐい読めてしまう点に田中哲弥の天才はあるわけで。
とにかく文体がすばらしい。軽くてコミカルであると同時に強烈な中毒性のある文章はまさしく天才のなせる業。そして書き下ろし最終話「スクーリング・インフェルノ」が示すように、お笑いの裏側に潜む不気味さもたまりません。「笑いと恐怖は紙一重」とはよく言われますが、田中哲弥はその言葉を体現する作家で、実際ホラー短編の分野でも独特の味わいで存在感を示しています。
まさか読めるとは思っていなかった天才の新作に驚喜しつつ、過去の作品の復刊および次回作への期待も高まります。お願いだから小説書いてくれ田中哲弥。
絶版は確定的
★★★★☆
素晴らしく不条理。不倫的。でも惹かれちゃうのはなぜなんだろう。ダメダメでダメダメで徒花が咲いたようなダメッぷりにもうメロメロ。
万人に理解されることはまず無いだろう。多分にフェチ向け。好事家以外は目もくれなくなって、最終的には絶版になるのはもう間違いない。古本屋でも出会える確率は稀だろうから、新刊のうちに買っといたほうがいいような気がしてならない。
まじめな人は読んじゃいけない気がしますので買わないように。