「夢」はふたつ。
★★★★☆
夢といえば実現性を予め想像できる「目標」的なものと、
まったくその撹拌性に限界の片鱗すら窺えない「ずぶずぶ」な容赦ない深遠な世界での
できごとの二通りがある。
もう「恐ろしい事態」である。
想像世界が活字になっているので、トリップした感覚を平然と保ちながら、
不安定に「気持ち悪くなる」感覚を楽しまなければならない。
もう、微笑ましいほどに妙な寂寞と荒涼が紡がれる。
体験してみてほしい世界かも・・・・。
素晴らしき異能
★★★★★
早川書房「想像力の文学」にて、記念すべき第1回配本となったのがこちら。とにかくナニと定義し難く、とにかく凄まじい馬力が漲り立つ怪作短編集。
無人の改札口を出ると、そこはもう一面の猿。どこかいびつな半月と、古い電柱に取り付けられた水銀灯の光に照らされてすべてが青白い。
という書き出しから始まる"猿駅(異形コレクション11初出)"は、その幻想的な情緒の欠片もかき消すほど夥しい数の猿が猿が猿が蠢き寄せるグロテスク。そこに一切の意味は読み取りがたく、まさしく理不尽なまでの不快の海に犯され浸される。これはダメな人は駄目だろうなーという、村の儀式の中で初恋の女の子が殺され解体されていくという"初恋"にしても、その夢幻的な情景と、無機物のように損壊させられていく肉体の描写が相まって、甘酸っぱく絶望的な喪失感を醸し出しており異様だ。滂沱の鼻血を流す男を描いた"遠き鼻血の果て"でもその異様さは止まらず、そこへ至る説明など一切行われない状況描写に、半ば憑かれたように引き込まれる。そしてここでもラストに至りようやく仄めかされる物語の背景が見えた瞬間、もはや狂い死にしそうな喪失感に苛まれることに。その最果てにココロが捻じ切れてしまったような哀切が迸る"雨"では現実という名の軸が狂おしく歪む。破壊的なドライブ感で紡がれる物語は、多くにおいて何か覗き込んではいかんような、底なしの穴を描き出す。笑いにも繋がりそうな異常なシチュエーションなのに、漂う不穏なベールのもと、ぎりぎりと追い詰められ壊れて男のココロが強烈なストレスとともに刻み込まれる"羊山羊"も凄かった。
一方で、佐藤哲也ばりのハイパーな理不尽小説の向きがある作品群もたいそう魅力的。ど田舎の奇祭に想をとった"ハイマール祭"は、爆笑と恐怖が表裏を成して荒れ狂い、すがるための藁すら見つけられぬ強烈な不快がカタチを成して襲い掛かる"げろめさん"も、その圧倒的なイヤさ加減にしかし眼が離せない興奮を覚える。
よく経歴として「吉本で脚本を書いていた」と紹介されている作者だが、例えば新喜劇のように「用意された」感のある笑いなどどこにもなく、むしろ滅裂とした爆走を続ける中で、気づけば強烈な感傷/不安/苦痛に苛まれている自分が居た、といった按配が強い。とにかくも、素晴らしき異能の作者であると思う。
新時代の鬼才が誘う異形の世界−一生ものの読書経験をぜひ!!
★★★★★
早川書房の新レーベル《想像力の文学》
その記念すべき第一回配本となった本作。
血まみれあり、人肉食あり、乱交あり、スカトロあり―と
胸の悪くなる短編を中心に収めた超弩級の作品集です。
村に伝わる《儀式》の一夜。
儀式の主役である少女に恋をした少年の淡い心情を描く(『初恋』)
目が覚めると浴槽いっぱいの鼻血の中にいた−ある女性にふしぎな出来事の顛末(『遠き鼻血の果て』)
などなど私の個人的嗜好とはずいぶん違うので
笑ったり、興奮したりはしなかったものの
どの作品も忘れがたい強烈な印象を残します。
とりわけ、表題作『猿駅』の主人公が殺しの恍惚に目覚める場面では
一瞬、その感触や恍惚がわかりそうな気がしてしまい、
そら恐ろしくなりました。
そうした作品の一方で
事故で亡くなった最愛の妹が、
蚊に生まれ変わったと信じるヤクザを主人公にした『か』
人間に進化したばかりのサルと女子高生の逃避行
そして、それに振り回される人々の様子をユーモアとともに描いた『猿はあけぼの』
など、静かに心を打つ作品やファンタジー作品もあり
なんだかんだ言いながら全編夢中で読み終えていました☆
筆者が今後どのような作品を出していくのか
あまり近づきすぎず、チェックしたいなぁと思います☆
一生ものの(傷を残す?)読書経験になること間違いなしの本書
ちょっとアブナイ世界にお目覚めの方はもちろん
常識の外へと一歩踏み出してみたい、
自分の中に眠るひそかな欲望に気づいてみたいたい
そんな方は、ぜひ、それなりの覚悟を持ってお読みください。