ようこそ異世界へ
★★★★★
小説や物語に、意味は必要なのだろうか。夢幻のような世界が繰り広げられ、そこに不思議に安らいだ気分で散歩するための短編群。「十月二十一日の海」は、意味から逃れた象徴的な作品。知り合いの妻という存在の持つ一種背徳的な魅力が濃厚にたちこめたまま、ここではないどこかへ次第に踏み込んでゆく感触が、「ラスマンチャス通信」と非常によく似ている。「均衡点」と「駆除する人々」は、ダーク・ファンタジーとして完結性の高い短編だ。この二編の魅力はわかりやすい。だが、その他の作品の、何が魅力かうまく説明できない混沌とした異世界描写が、どういう小説ジャンルにも属さない不思議な魅力を持っている。