塩野氏初期の佳作
★★★★☆
塩野七生氏初期の作品。
主人公はチェーザレ・ボルジアなる人物。かのマキャベッリと同時代を生き、その知力と武力をもってイタリア半島の半分を勢力下においた若き武人…といっても世界史オンチの私には、この人物がどれほどの知名度なのか量りかねるのですが…(例えば高校世界史なら必須だったりするのでしょうか?)
本作品は彼の波乱万丈の人生を、たった32歳で逝った彼の人生を、淡々としたタッチで描いていきます。その冷静な筆致が、主人公のどこか哀しい人生とその末路をいっそう際立たせているようです。
後年の「ローマ人の物語」などでは、史実を追いながらもところどころに現代への批評などを織り込んでいく塩野氏ですが、本作ではあくまでも客観的に事実を記述していくことに徹しているようで、その作風の違いに驚かされます。どこか塩野氏の「青臭さ」が感じられる作品です。
塩野氏の作品ではマイベスト
★★★★★
最初に書いておきたいのは、作者の思想や歴史観、「英雄史観」にも「プラグマティズム」にも賛同はできません。それでもなお本書は面白いと言えると思います。若書きの部分もあるのでしょうが、著者の熱意、なかでもチェーザレ・ボルジアへの愛を強く感じます。『ローマ人の物語』では、少し辟易するような瑣末主義的な部分がありますが、本書ではそういう点も感じられず、一気に読むことができます。個人的には、著者の作品としては最も好きな作品です。
小説より奇なり
★★★★☆
『ローマ人の物語』以来、ひさしぶりに塩野七生さんの作品を読みました。
場面の描写などは作者による創作であるにしても、基本的な事柄は史実である、ということにまずは圧倒されます。
このような人物が存在して、これだけのことを成し遂げようとし、そして没落したという事実。
そこには、創作されたドラマを凌ぐ迫力がある。
塩野さん流の「肉づけ」については、私は好感をもって読めました。
レビューを見ると、合わない人には合わないようですね。
「英雄色を好む」的な描写を、女性的な目から肯定的に捉えているところなど、不快に感じる人もいるのかな。
『ローマ人の物語』のすばらしく生き生きした人物描写を先に読んでいたので、それに比べると少しあっさりした感じもしました。
作者の作家としての成熟によるところもあるでしょうし、題材の性質によるところもあるのかな。
次は、『わが友マキアヴェッリ』を読んでいます。
チェーザレの魅力満載
★★★★★
古い本だが、久しぶりに読んだ。きっかけは、先日読んだ惣領冬実の『チェーザレ』が面白くて、改めてチェーザレ・ボルジアのことを知りたいと思ったからだが、こちらの本もそれに負けず劣らず、面白かった。
チェーザレとダヴィンチの出会いもさらっと触れられているが、塩野はこの二人を高く評価しているのがよく分かる。この辺をもっと膨らませたものを読んでみたい。
ヨーロッパの中世、ルネサンスの頃は、なぜ、こんなに小説やコミックの題材になるのだろう。魅力的な時代だとは思うが、日本人が惹かれるのはなぜだろう。ちょっと、不思議。
緊張感のある「文章」の魅力
★★★★★
面白くなって読むのにエンジンがかかってきたときに、イタリアの地名と人名が壁となって立ちはだかる。わたしは、読書に関してお世辞にも忍耐強いタイプの読者ではないので、並の本であればすぐ嫌気がさして読み終えずに本棚にぶち込む。けれども、本書は読み終えた。きっと、著者の物語の運びが巧みなせいだろう。チェーザレ・ボルジアという青年に魅入られたせいもある。著者の文章が洗練されていて好みにあっていた。
印象に残ったのは、ピウス3世が在任わずか1カ月で亡くなって後任の法王を選出する場面の叙述であった。チェーザレはローヴェレ枢機卿と取引をして彼が法王となるのに手を貸した。塩野七生はいう。
「彼は、賭に、というよりも政治に負けたのである。」