その点、古代日本史に不案内な読者をもグイグイ引っ張っていく本著の面白さは秀逸。神功皇后の神がかりを卑弥呼になぞらえているという「第一章」の記述から、「第三章」の、中大兄皇子の母・皇極天皇が蘇我蝦夷と競い合った「雨乞い合戦」、あるいは、彼女が斉明天皇として再び即位した後、自ら百済救援軍の後方支援に向かったことまでを、スーパー歌舞伎を彷彿とさせる早いテンポで描いた筆致は、快刀乱麻そのもので小気味よい。
著者は、古代日本の為政者や支配階層が、中国・唐時代の律令制度を重用したがために、それまでの日本になかった男尊女卑の思想が浸透したと述べ、女性統治者が姿を消していった理由と推論する。
女帝の歴史を探ることによって、日本独自の方法や習慣のすばらしさ、女性の社会的地位が安定していることの得がたさなどを読者に明示し、女性天皇の存在意義を暗にうったえ、21世紀の日本の在り方を私たちに示唆しているのである。「女帝の古代史」は、秋の夜長、耽読するに十分な一滴である。