高橋克彦とは違う蝦夷観
★★★★☆
1000年以上前の時代となると、今に比べて人間はより野生に近く、野蛮な行為が頻繁に行われ、武士と言えどもほとんど損得勘定で動いていただろう。本書はその時代の人間を結構リアルに描いているのではないかと思う。残虐な、人道にもとる行為の描写も少なからずある。主人公の呰麻呂は魅力的であるが、彼の非情さや残虐さもかなりのものである。
その点、高橋克彦作品は蝦夷を美化しすぎている嫌いがある。しかし、利よりも誇りのために戦っているので、感動的である。
小説としての楽しさを純粋に追求したいのなら高橋克彦だが、違った蝦夷感(と言うよりも当時の人間観)を培うためには本書も押さえておくべきであろう。
反抗者たち
★★★★★
蝦夷の英雄アテルイの父親、呰麻呂(アザマロ)の活躍を描く歴史小説。
古代の東北(7世紀半ば)の話は、あまりよくわからない。アテルイの名前ぐらいは知っているが、日本の歴史でもほとんど触れられないところだ。
しかし、物語としては非常に面白い。朝廷に反抗する人々が当時いたんだな、この日本も決して、単一民族で出来上がったわけではなく、血で血を洗う抗争の末、統一されてきたのがよくわかる。
高橋克彦「火炎」に匹敵する叙事詩!
★★★★★
大和朝廷が「東北の地」を支配下に納めていくプロセスは、
高橋克彦の「火炎」が圧巻だった。
しかしこの「荒蝦夷」も、優るとも劣らない。
押し寄せる大和朝廷軍に立ちはだかる荒蝦夷――砦麻呂。
人物造形も秀逸。他のキャラも充分に書き込まれている。
「火炎」ほど、血湧き肉躍るものはないが、
そのぶん、静かな炎のような迫力がある。
これは熊谷達也独特の、重厚な迫力だ。
決して服従しない者たちの生き様は、感動的でさえあった。
ガツンと来る大作
★★★★☆
NHKあたりには、是非本格大河ドラマの設定作品として勉強でもしてもらいたい作品である。
蝦夷と呼ばれる種族が、時の政権(大和朝廷)の政権下で、勢力を伸ばしてゆく様を、リアルに、ドラマチックに描く力作である。
人の執念、葛藤、拘り、確執、天分、裁量、決断などが、様々な登場人物を通して計算して描かれ、最終の制覇までに至る。等しく読者は、満足に至る作品ではなかろうか?
自然描写、人間描写も、誇張せず、手を抜かず、読者の想像力に寄与していると思われる。
読まされて、そして少しだけ言いたいこと。
★★★★☆
大学時代国史の教官から「日本という視座から古代~中古の東北を見ても理解できない。それはヤマトというフィルターを通して見ることになるからだ。東北には東北を中心に据えた理解の枠組みが必要だ」と習ったことが思い出される。まさしく東北にとっての東北人がこの本では躍動していた。ヤマトにつけられた蔑称としての「蝦夷」を、ヤマトとは同一視されたくない自分たちのアイデンティティ「蝦夷」に転換して誇り高く生きる荒ぶる魂が全編に渡って我々に昂揚をもたらす。しかし、時代を世界を社会を動かしたのは一握りのスーパーヒーローだという英雄史観の枠からは作者ものがれられなかったのではと感じてしまったのも事実である。