家族のあり方
★★★★☆
現代の家族のあり方にも通ずる所があると思います。
一郎は長男で学者、家族の者たちが腫れ物に触るかの
ように彼を扱い、彼は孤立していく…
この作品は弟二郎からの目線で書かれているが、それでも
十分ゆがみきった家族関係が伝わってくる。
一郎のハッキリしない態度に家族は逃げ出したくなる。
しかし、彼を理解しようとしたであろうか?よく分からない
まま孤立させているだけではないか?
現代の引きこもりなどの問題も、家族があまりにも子どもを
大切にしすぎたために起こっていると言える。
家族のあり方に迷ったら読むべし!
一郎さんてどんな人?
★★★★★
読んでみました。
一郎さんて結局どんな人なんだろうってぼんやりと考えてみました。
たぶん、奥さんの事がとても好きなんだろう。
でも、うまく好きって伝えれないんだろう。
そして、奥さんが自分の弟と仲よくって嫉妬したりする人なんだろう。
一時はテレパシー開発なんかに凝るほど、愛しているんだろうね。
そして、
あまりにも愛している。
あまりにも好きなのに奥さんの気持ちが自分(一郎)を愛しているのか?
それとも
愛していないのか?
解らないっていう気持ちから、その気持ちが一郎の職業柄
愛するとは何か?
とか
人間とは何かという哲学的なことを考え始めるんだね。
それも、真剣に。
普通の人は悩みに悩んだら、
もう、悩んでも解らないから、
「神様、どうか助けてください!」
って宗教的になる場合もある。
でも、
一郎さんは、「その神様って何かね?」
神の存在まで哲学的に考えていこうとする。
しかし、
この神をテーマにした考えは
そう理性では決着がつかない。
…
まあ、一郎は、奥さんの愛の葛藤から哲学的になり、懊悩している人って感じかな?
悩ましい本です
★★★★☆
明治の昔から女性の中にはこんな冷たいタイプの人がいて、頭でっかちの男はそんな女心でも理解できると思い込み、理解しようと焦るあまりにかえって地雷を踏んでしまうようなことになっていたのだと思うと、なんかもう、やたら同情を禁じ得ない。
一郎が、鏡子夫人に頭を悩ませる漱石自身を描いたものだとしたら、「オレもそうだよぅ」と漱石氏と一緒に飲みに出かけたくなるような本でした。
漱石と鏡子の分身を彷彿とさせるフィクション
★★★★★
漱石晩年の3部作の第2作、「明暗」の前作とされる、脂の乗り切った時代の
傑作である。小説というよりも、心理学者の分析もしくは思想家の提言のように感じとれた。
「自分」は弟・二郎であるが「兄」・一郎は漱石自身、「嫂」は漱石の妻・鏡子がモデルと思われ、理知的な態度、はきはきした言葉使いは自尊心の現れであり、自立した個人主義像のお手本のごとく描かれている。
大正2年朝日新聞への連載途中で胃潰瘍で5ヶ月中断したようだが、再開後(最終章「塵労」とされる)は風景・人物描写ともに無駄がなく筆の冴えは見事という他ない。三沢からの手紙(兄との旅行の報告書)で兄を行状や心境を知った当時の読者の驚きはいかばかりだったろうか。
漱石が男女の人生観や心理描写に冴えみせ、感慨をもって書き記したと思われる箇所をいくつか列記しておこう。
[ 「兄」四十一 ]
「時たま本当の父や母にむかいながら嘘と知りつつ真顔で何か云い聞かされる事を覚えて以来、世の中で本式の本当を云い続けに云うものはひとりもいないと諦めていた。」
[「帰ってから」五 ]
「この年になるまで子供をあやす技巧を覚える余暇(ひま)がなかった。二郎、ある技巧は、人生を幸福にする為に、どうしても必要と見えるね」
[「帰ってから」十九 ]
「男は情欲を満足させるまでは、女よりも烈しい愛を相手に捧げるが、一旦事が成就するとその愛が段々下り坂になるに反して、女の方は関係が付くとそれからその男を益(ますます)慕うようになる。」
[ 「塵労」四 ]
「男は厭になりさえすれば二郎さんみたいに何処へでも飛んで行けるけれども、女はおすは行きませんから。- - - 妾(あたし)なんか丁度親の手で植え付けられた鉢植のようなもので一遍植えられたが最後、 - - - 凝(じっ)としているだけです。 - - - 」
知識人への警告書
★★★★☆
自分の頭脳に絶対的な自信を持ち、他者に厳しく潔癖な一郎。
その一方で、楽天的に生きているような人間を心底羨ましいと感じている。
「私以外はすべて阿呆」というこの一郎のような心境は、
程度の差こそあれ、現代人は抱えているのではないだろうか。
都市化し、多くの情報が溢れ、体験を伴わなくとも分かった気になれるし、
ボタンを押すだけで多くを実現できる便利な生活は、万能感を持ち易いが
その一方で多くの自殺者や鬱病・神経症患者を産んでいる。
一郎は少し先取りしただけで、今の人と同じなのかもしれません。
主人公を、知識人の悲劇・孤独などと解釈するのは簡単ですが、
今の日本人と対比して読んでみた方が、得るものがあるように思えた作品です。