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人ありて―頭山満と玄洋社

価格: ¥2,415
カテゴリ: 単行本
ブランド: 海鳥社
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日本の近代史、政治史として読んでもおもしろい ★★★★☆
 幕末、薩長同盟のお膳立てまでしながら、藩論が分かれたために維新政府内部に一つの要職も与えられなかった筑前福岡藩が舞台背景となって誕生した玄洋社とその看板とでもいうべき頭山満の話である。
 福岡藩じたいも維新政府から政治的弾圧を受け、頭山満自身も政府転覆の疑いで収監され、連日の拷問を受けている。このことが源流となって玄洋社が誕生しているが、歴史教科書における近代史を読み直しているかのようだった。

 ダイジェスト版ともいうべきこの一冊の中で注目に値するのは、やはり玄洋社と孫文、蒋介石とのつながりだろうか。
 欧米列強に侵食された中国が国家としてまとまるために孫文が立ち上がったが、その孫文の数度に渡る日本での亡命生活を支え、革命を支援したのが玄洋社である。
 無用な戦いを中国にしかけた軍部に抗いながら、頭山満は中国との和平を模索するものの東條英機の弾圧で反古になっている。さぞかし、無念だったろう。
 しかし、その頭山満の思いは蒋介石に届いていて有名な「以徳報怨」の演説が全世界に流れたのだった。戦時賠償権を中国が放棄したことが、その後の日本の復興にどれほど大きな恩典を与えてくれたかはかりしれない。

 日中平和友好条約締結のために北京を訪れた園田外務大臣を素通りして、秘書として随行していた頭山満の孫である頭山興助氏を探しに中日友好協会会長の廖承志氏が政府専用機に乗り込んできた一件は孫文の時代から人間的関係がいかに深かったかがわかるエピソードである。

 GHQの調査官による作為的とも思える報告から侵略国家の手先のように思われる玄洋社とその関係者だが、もうGHQのプロパガンダとアメリカの覇権主義から解放されてもいいのではと思えるものだった。
誤った「伝説」を正す好著 ★★★★★
頭山満と言えば「右翼の大物」「極右」としておどろおどろしい伝説の中にあり、映画や漫画など戦後の大衆文化における「右翼の大立者」のイメージの原型となっている。この本は、そのような通俗な「思いこみ」を、丹念な取材に基づいてさらりと修正する。
頭山満が生涯をかけて渾身の努力をしたのが、「日中和平」であったというたったひとつの「事実」をもってしても、いかに通俗なイメージが誤っていたかを示して余りある。なにより、淡々とした事実から描かれる頭山満ほかの玄洋社群像が魅力的だ。
中華民国総統として「凱旋訪日」した孫文を、玄洋社の人たちは「座布団もない冷畳」で迎える。孫文はかつての亡命時の貧窮の時と変わらぬ玄洋社の待遇に、かえって感激するのである。頭山と孫文の友情は生涯変わらなかった。