枝葉を落とし、切れのよい日本語に
★★★★★
たくさんの邦訳がある世界文学の名作だが、小野寺氏の新訳は、短く切った日本語の文章が快い。冒頭部分を既訳と比べてみよう。(本書)「1801年――いま家主に挨拶に行って、帰ってきた――これからはこの男以外、かかわりをもつ相手はいない。それにしても、この土地は美しい!」/(大和資雄訳、角川文庫)「1801年――いま地主の家を訪ねて帰って来たところだ。これからめんどうくさい隣づきあいをして行かねばならぬのはこの家だけだ。ここはほんとうに美しい土地。」 /(鴻巣友季子訳、新潮文庫)「1801年――いましがた、大家に挨拶をして戻ったところだ。今後めんどうな近所づきあいがあるとすれば、このお方くらいだろう。さても、うるわしの郷(さと)ではないか!」/(原文)「1801―I have just returned from a visit to my landlord―the solitary neighbour that I shall be troubled with. This is certainly a beautiful country!」/the solitary neighbour以下の関係文を、必要最小限の情報に絞って訳した小野寺訳は、それ以外の部分も引き締まっている。