癌とともに生きる
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「癌とともに生きる」という言葉が自己矛盾ではなくなったいまの時代、
それでも死を考えるというのは永遠の課題である。
死を永遠に考えると言うことこそじこむじゅんであるが、
永遠に生きられないことが分かっているからこそ、
それを超えて考えることができるのが死なのである。
臓器移植などという問題でも。
その大いなる助けになるのが本書である
死に直面したら何ができるか、突然の人生終焉に備える
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癌という現代医学でも完全に克服できていない病に侵され、死を見つめながら生きざるを得ない人間が、残された時間の中で何ができるか、どう生きるかが問われる。精神科医・西川喜作氏のそうした苛烈な生を辿りながら、末期患者に対する医療のあり方を考える本書は、高齢化社会の医療文化への示唆に富むものであるだろう。健常であるときには全く想定しない世界が突然現出する。ただ己以外にはこの状況は誰とも共有し難いものなのだろう。限界的状況に追い込まれれば追い込まれるほど、人は己の生きた証を必死に求めたくなるものかもしれない。
西川喜作氏の生き様は悲しいほどに地道だ。読者の一人である私には、本書中の「旅路」に書かれた追憶に満ちた旅となった信州再訪が印象的だ。若かりし頃インターン研修に選んだ病院を訪ねた末、建物はドアーも窓もすべて閉ざされて荒れ果て、人気もない。ドアーに「廃院」と一枚の紙が貼られているだけの建物を前にして、ただ落涙し佇む場面だ。一方、西川医師は医師活動を続けながら己の闘病記を残すことで自己実現を図り、2年7ケ月に及ぶ癌との闘いを終えられた。死に直面する前に出来れば読んでおきたい著書の一つだろう。
言葉を失うほどの真実に正面から向かって
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これはドキュメンタリーである。ひたひたとおしよせてくる「死」の恐怖が、どれだけ神経を蝕んでいくのかが、克明に記されている。どれだけの人間が死に直面し、その時においてどれだけのものを残る人間たちに置いていったのか、それは著者の柳田氏の温かい人間性と冷静な視線とで筆舌に尽きる。これを読むことによって、「死」という誰もがもつ、逃れることのできない共通の恐怖と、誰しもが捜し求める「生きるとは何か」を読み取るには充分な作品である。ここに挙げられた「生と死の真実」は、人生において一度は読んでおくべきものだろう。著者自身のことにも中では語られているが、著者自身を最も書いたものとしては、「犠牲(サクリファイス)」がぜひ必読であろう。
死生観の悟りの境地に導く啓発の書
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死は、いつの世も誰にも、まるで懐かしい旧い友人が訪れるように不意にやって来る、この全宇宙の織り成す大自然の営みの中で、まるで人間と言う生物だけが傲慢不遜に振る舞い、未来永劫の繁栄の下、人間だけが永遠の生命のサイクルを維持し続けるような錯覚に陥っている現代人に改めて死生観を問いかける、まさに死への序章への手引書である
「死の医学」の草分け的著
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この本は、私が既にレビューを書いた「輝け命の日々よ」(NHK特集名作100選)のビデオと大きな関連を持つ。内容はこれだけではないが、柳田邦男さんは、取り上げられていた西川医師の生き方を、実際の状況から見事に解説、描写して、「死の医学」の必要性を伝えている。
私はこの本がきっかけで、柳田邦男さんの医学関連の本を読むようになった。恐らく、これは「死の医学」の必要性を初めて論述した本ではないだろうか。