表題作には怖さすら感じます。
★★★★☆
一筋縄ではいかない「恋」を
表現した作品。
特に表題作は一見よさげに思えた瞬間に
事態が急転するのが衝撃的。
そしてもう1作品傑作をあげるならば
間違いなく、「親愛なるエス君へ」をお勧めします。
ただし、カニバリズムというフェティシズムな
事象を扱っているため苦手な人には
耐え難い作品でしょう。
特に最後の閾値を越えたあの行為は
もはや何もいえなくなるぐらい衝撃的です。
本当に怖いものです。
《火にまつわる三部作》+「花衣の客」+「親愛なるエス君へ」
★★★★★
◆「親愛なるエス君へ」
幼少の頃から人肉食への妄執に取り憑かれていたフランス人の男が、
パリで人肉食を犯した日本人の「エス君」に宛てて書いた手記、という
体裁が採られた作品。
人肉食というデリケートな題材を扱いつつも、その重みを軽々と
トリックに転化させていく作者の手際には、脱帽するのみです。
ただ、あまりに非道徳的で猟奇的な内容であるため、怒った
り、生理的嫌悪感を覚えたりする向きもあるかもしれません。
しかしそこは、あまり真に受けず、ミステリとして割り
切って楽しんだほうがいいのではないかと思います。
作者特有の情緒溢れるムードが一切排されたサイコ・サスペンスで
作者の全作品の中でも特異な位置を占める異色作ではありますが、
作者の卓越した技巧によって、バカミスになる一歩手前で踏みとど
められた、希少な傑作でもあるのですから。
人肉食に取り憑かれた男――「親愛なるエス君へ」
★★★★★
◆「親愛なるエス君へ」
幼少の頃から人肉食への妄執に取り憑かれていたフランス人の男が、
パリで人肉食を犯した日本人の「エス君」に宛てて書いた手記、という
体裁が採られた作品。
人肉食というデリケートな題材を扱いつつも、その重みを軽々と
トリックに転化させていく作者の手際には、脱帽するのみです。
ただ、あまりに非道徳的で猟奇的な内容であるため、怒った
り、生理的嫌悪感を覚えたりする向きもあるかもしれません。
しかしそこは、あまり真に受けず、ミステリとして割り
切って楽しんだほうがいいのではないかと思います。
作者特有の情緒溢れるムードが一切排されたサイコ・サスペンスで
作者の全作品の中でも特異な位置を占める異色作ではありますが、
作者の卓越した技巧によって、バカミスになる一歩手前で踏みとど
められた、希少な傑作でもあるのですから。
名人による良い仕事
★★★★☆
「戻り川心中」で日本推理作家協会賞、「宵待草夜情」で吉川英治文学新人賞、「恋」で直木賞と短編・短編集でいくつもの賞を獲得している短編の名手である著者の手による短編集。
上記の作品や「変調二人羽織」「夜よ鼠たちのために」といった短編集に知名度では劣るものの、本作品も相当に高いレベルにあり、この作者の実力の高さを示している。
文学性の高さで語られることも多い作者だが、新本格の作家達にも引けをとらないトリッキーな技も持ち合わせており、一般の読者もコアなミステリマニアもどちらも満足できる内容で、本編では「花衣の客」「親愛なるエス君へ」あたりは特にお勧めである。
現在やや入手が容易でないのが残念な本書であるが、機会があれば是非手にとってみて欲しい。