イリイチ思想の集大成
★★★★☆
世界史的規模からすれば、ラテンアメリカの抱える問題は西欧や日本のそれよりも大きい。著者のパウロ・フレイレ、チェ・ゲバラ論に続いてゆくラテンアメリカ三部作の初めとなるイリイチ論。
前期の制度批判から後期の本批判、メディア批判、イメージ批判、身体論、キリスト教論まで一貫した糸を捜そうとする、全538Pの大著。
次期法王とも目されたイリイチは、ラテンアメリカの諸価値を無視して西欧化を推し進めるバチカンに反逆、世界的規模の闘争をし、異端尋問にかけられ破門される。著者は全盛期のメキシコでのイリイチの終盤に接し、日本での紹介に寄与した。
交通・学校・医療が場所を破壊してゆき、均質化したライフスタイルとサービス空間を行政と共に作り出す。
「言語」などというものは無く、記述の次元で文法とか発音とかが規定されて、逆に合わない音や無言でも意味の伝わる場合が排除されていった過程にすぎない。国語とは、記述的表記と一体になった規範にすぎない。言語に文化があるなどというのは、規範と文化を取り違えた錯覚に過ぎない。
後期はキリスト教の神に対する信仰の堕落として、教会から現代制度批判が展開されてゆく。
だが著者によればイリイチは書かれる筈だったニーズの歴史、希少性の歴史の叙述に成功せず、フーコーのような理論が無く貴重な論点が散種されるだけに終わった。しかしイリイチによる産業サービス社会批判は人類史上最大の業績であり、そこから後期へと展望されて垣間見える世界はこれからに必須のものであると。