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同日同刻―太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日 (ちくま文庫)

価格: ¥907
カテゴリ: 文庫
ブランド: 筑摩書房
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<故国再生の想い>で太平洋戦争を俯瞰する証言の書 ★★★★★
「最初の一日」(昭和十六年十二月八日)では、真珠湾奇襲の急報に同士撃ちと受け止めたり、「ハワイではなく、フィリピンの間違いではないか!」「日本軍がパールハーバーを攻撃出来るはずがありません」という米国高官に対して、「日本人はこういう思いがけないことをやるやつなんだ」と一人冷静なルーズベルトの反応が印象深い。

「日本も、けさから、ちがう日本になったのだ」(太宰治)「世界は一新せられた。時代はたった今大きく区切られた」(高村光太郎)などと、日本人の多くは緒戦の戦果に歓声を上げた。逆に、巨大なボイラーたる米国に点火してしまった日本の「木っ端微塵に打ち砕かれるであろう」運命を予想したチャーチルは、米英連合軍の勝利を確信する。

敗戦に至る「最後の十五日」(昭和二十年八月)では、戦局の不利を省みず本土決戦を唱える頑迷な軍部主導の日本と、原子爆弾を使用し非戦闘員を巻き込む多大な死傷者を出しても米国兵士の犠牲を抑え、日本の早期降伏を促す意志のトルーマンに率いられた米国とが対照的に描かれ、<人間行動の賢愚>がもっとも端的に顕われてくるのが戦争なのだと気付かされる。

意地と面子で戦争継続を主張する陸軍首脳部。国民不在の<長評定>に明け暮れる政府に業を煮やした抗戦派青年将校が武力叛乱を画策する。大陸ではソビエト軍の満州侵攻に関東軍関係者が我先に逃げ出し、皇軍に見捨てられた満蒙開拓団の日本人を引揚げの悲劇が襲う。「この静かな夏の日の日本が、今の瞬間から、恥辱に満ちた敗戦国となったとは!」という玉音放送の証言者には、疎開学生だった著者自身も含まれていた。

著者の<故国再生の想い>をも代弁する大佛次郎の文章が味わい深い。「切ない日が来た。生き残った私どもの胸をつらぬいている苦悩は、若ものたちを無駄に死なせたかという一事に尽きる。(中略)待っていて欲しい。目前のことは影として明日を生きよう。明日の君たちの笑顔とともに生きよう。その限り、君たちは生きて我らと共に在る。」 戦禍の同時代人だからこそ、著者には太平洋戦争を俯瞰する証言記録の『同日同刻』を著す必然性があったのだ。
重い、非常に重い、それでいて冷静な記録 ★★★★☆
時系列で太平洋戦争が起こった昭和16年12月8日と、終結に至る昭和20年8月1日〜15日を様々な立場の人々の真摯なる声を資料として集め、その後に山田さんが切り取って並べたものです。当然すさまじい記録になっています。


まず最初の日である12月8日の日の軍部や市民の興奮の仕方、その熱さに驚かされました。その当時の空気や雰囲気を十分に感じられますし、中でも冷静な人が数人いたりしていたことが、まだ救われる気持ちになります。


しかし、見事なまでにほとんどの人(中には読んだ事ありますが、太宰 治、坂口 安吾、獅子文六さんまでも!全く普通に熱を感じ、宣戦布告を聞き、「生まれ変わって」しまって感じているのです)がそこまで熱くなってしまっているのを鑑みると、後から「冷静になれたはず」なんて思うのはもしかすると相当に無理な要求なのかな?とも思いますし、それだけ情報が閉ざされた状態では仕方の無いことなのだからこそ、そんな状況にならないことが重要なのでしょう。後からの批判を簡単には言えないものであることを、論理的に説明するのではなく、その当時の状況を振り返った方々の「文章にする」という何拍か置いたあとの記述でさえこの「熱」を感じさせるという事実によって説得力を感じさせます。


この本の性質上、非常に重く、厳しい現実、思わず読み続けるのを躊躇させられるかのような苦しい描写、そして名言ばかりが続くのですが、それを並べることでより大きく俯瞰できることもまた大きな仕掛けだと思います。私は事実として知っていようとも、広島と長崎の悲劇を体験された方の文章が特に凄かったです。無論、政府や軍部の方々の重みある決断や試行錯誤、そして面子やプライドもありましょうけれど、負け方ひとつとってももう少しどうにかならなかったのか、と感じてしまいます。

莫大な量の肝の部分を並べ、しかも読みやすく、それでいて記録映画をみているような描写と構成で、たくさんの人が読まれるべき本のように感じられました。


読むまでは、気にならなかったことでも、読むことで、知りえたことで、判断を新たにできると思います。もう少しいろいろ調べてみたいことが多くなりました。ありのままは無理としても、その記録に近いものを読むことで立ち上がってくる何かを、先に生かし、少しでも賢くなり、しあわせでいることが私はそれぞれの人に託されているのではないか?と思えました。少しでも何かを吸収したい人にオススメ致します。


最後の最後、大佛次郎のくだりは重い、本当に重い。
作家の実力 ★★★★★
山田風太郎といえば忍法帖、という印象が強いが、本作で見せるノンフィクション作家としての実力も圧倒的。とにかく事実を並べていくだけなのだが、とにかくぐいぐいと読ませていく。あの時代の空気、背景を知るためにはもっとも適した本ではないかと思われます。
答えのない問い ★★★★★
「記録だけで描ききった戦争の悲劇」と帯にある通り、この本に筆者の意見はなく記録だけがまとめられています。
その記録にある千姿万態から見えるのは、あの戦争はひとによって違った意味を持っていたことだけ、善悪正邪などそこにはないのだと作者は言いたかったのではないのでしょうか。

筆者・山田風太郎は膨大な量の太平洋戦争関係書物を読みあさっていたそうです。
卒業アルバムに貼り付けられた友の写真の横には、「戦死」の文字をかきつけていた彼。
あの戦争のあとは余生だと語っていた彼。
そんな彼のまとめた「あの戦争」の記録は、あの日あの時を私たちの前に再現します。それをどう読むかは、すべて読者にゆだねて。