むずかしかった
★★★☆☆
儒学が、江戸時代から明治時代の経済政策に与えた影響を調べていて、この本を読みました。
この本には、知とか理とか性についての、朱子と陽明の見解がこと細かく書かれていた。しかし、その見解が、政策や道徳に、どのように影響していったかは、書かれていなかった。
中国国内での朱子学と陽明学の成立・変化を教えてくれる一冊
★★★★★
津軽藩主にも影響を与えたという山鹿素行の「聖教要録」を読んでいて、その朱子学批判の言葉を読んでいくと、元々の朱子学についての理解が浅かったことに気づいて、この新書を読んでみた。
本書の構成は「新しい哲学の出発」「宋学の完成・朱子学」「陽明学の成立・展開」「儒教の反逆者・李贄(李卓吾)」の四章からなり、あとがきと折り込みの思想家年表が付いている。全篇で漢文書き下し文やその現代語訳が引用されながらの議論で、理解を助ける図表もいくつか載せている。
内容でいえば、韓愈をその先駆者として周濂渓・程明道・程伊川・張横渠などの思想を宋学の発展と見て概説する第一章から、朱子が先学の理論を取捨選択して朱子学を完成し、陸象山がその取捨され形成された学説に異を唱える様子を解説した第二章、朱子学が王朝の学となって固定化したことやその思想に異を唱えて陸象山の説を継ぎながら陽明学を立てる王陽明の思想とその継承者の思想を辿った第三章、陽明学の思想を突き詰めて儒道仏の三教一致にまでいたった李卓吾の思想を示した第四章と、時間的推移に則って、政治・社会の変化にも目配りした議論が続いていく。それを追っていくと、朱子学の生まれた経緯、朱子学から陽明学へと受け継がれた部分と受け継がれなかった部分、陽明学が陥っていく必然的な変質について理解できるようになっている。
この部分を辿ると、朱子学批判をした江戸の思想家たちがどの意見に準拠し、どの意見に反発したかという筋合いが思い浮かんでくる。もちろんここでの議論は中国国内での立論しかないのだが、江戸の思想の準拠枠としての朱子学の理屈がわかりやすくまとめられている。「近思録」の読み方がわかる著書でもあった。
ここでの議論をもとに、日本で朱子学や陽明学がどんな風に受容されたかを考えてみるのも面白い。中国国内の朱子学・陽明学の成立と変化を教えてくれる一冊。
朱子学・陽明学の最高の入門書
★★★★★
他の方が、「濃密な内容」とか「熟読すべき本」とおっしゃっているが、まったく異論がない。新書とは思えないほど充実して書かれており、著者がいかに熱意を込めているかわかる。歴史的な流れにそいながら書かれており、また煩雑にならぬよう分かりやすく書かれていて、ある意味、名著のお手本のような新書である。新儒学史としても読めるし、個々の分野別にも読めるし、一冊本棚に置いておいて損ではないだろう。新儒教の朱子学・陽明学が全く分からないずぶの素人にも、また今一度おさらいして置きたい中級者にも、胸を張ってお勧めできる良書である。
熟読玩味すべき本
★★★★★
この様な書物が40年間、版を重ねていることに、日本もまんざらではないなと思いました。基本知識がなければ本書は最初の数頁で読み進めなくなってしまうかも知れません。しかし、それは知識の不足ではなく、関心の不足であると思います。苦境にあって陽明学を支えとして克服したという方がいます。そんなことを思い出し、では自分も陽明学とそれに先行する朱子学を知ってみよう、という気で本書を読み出しました。これでは若い人は読めないだろうなと思いながらも面白い面白い。本当に本を読んだという気持ちになりました。
欧米流論理思考では論証を行うのが通常ですが、東洋思想の場合は、直感でわかりやすいことの積み重ねで成り立っています。急ぎ読みさえしなければ十分理解できて味が出てくるものと思います。わかりやすいが深いところがわからないという今日の解説書とはまったく異なります。
じっくり読むべき濃密な内容
★★★★★
この頃の新書にはない実に濃密な内容をもっていて、簡単に読みとばしては惜しい、じっくり接するべき本。旧世代の学者先生は、なるほどたいしたものだったと実感する。二三、とくに仏教に関する記述に承服しがたい箇所もあるが、古典的儒教から宋学、明代の陽明学まで、中国思想のメインストリームのひとつがどのようなものであったか、門外漢にも要点がつかめるように書いてくれている。ただし、自分なりに整理しながら、かつ自分なりに批判を加えながら読む必要があると思う。個人的には得るものが多く、さらに各思想家の原著訳に接してみたい気になった。