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美容整形と化粧の社会学―プラスティックな身体

価格: ¥3,045
カテゴリ: 単行本
ブランド: 新曜社
Amazon.co.jpで確認
理論と実践を横断した良作 ★★★★☆
本書『美容整形と化粧の社会学』は男女問わずもはや看過できなくなってきた
美容整形や化粧といった「身体加工」についての社会学的考察だ。

選考研究と論点の数々を顧みられる第一章によると、これまでもフェミニズム系
の論者から美容整形を女性への「美の神話」の押しつけであるといった批判や、
反対に肯定する議論も巻き起こっている。しかし、この著者の研究の焦点はそれ
らと異なり、「美容整形をした(いと思っている)人たちのアイデンティティはどのよ
うになっているのか?」なのだ。

前半では整形を含む一般的な身体加工に関する若者へのアンケートや、実際に
美容整形を受けた経験のある人へのインタビューが敢行されている。特に後者に
て、施術を受けた人の中では「前」と「後」で心境の劇的な変化があるというわけ
ではなく、むしろ自分のセルフイメージに身体を補正していく感覚が強いという話は
興味深い。また、女性が美容整形をする動機として語られてきた「劣等感」「異性
の視線」といった通俗的な見解を覆す、「自己満足」という言葉は本書のキーワード
の一つになっている。

第二部は明治から現代にかけての化粧品広告の考察に充てられる。広告の内容
を自然性/科学・医療・テクノロジー、あこがれ/身近さという四象限に分別して考
察しているのだが、時代を下るにつれ美の方向性が自然性から科学・医療・テクノ
ロジーへ、あこがれから身近さへシフトし、先の美容整形の議論へ実は接続してい
く仕組みになっている。詳しくは本書を手に取ってみてほしい。巻末には諸外国の
美容整形をした人と施術した医師へのインタビューによる本書での日本の議論との
国際比較も付録されている。

他の評者が指摘するとおり、従来の心身二元論的議論に回収しきれない「行為」
「感覚」にこそアイデンティティが付随するという結論は白眉だ。化粧を論ずる箇所で
は門外漢として「最近ナチュラルメイク流行ってなかったっけ?」と疑問に浮かんだが、
美容整形に対する肯定/否定という閉塞に風穴を開けた本書の意義は大きいことに
ちがいはない。
スリリングな知的興奮 ★★★★★
 「ナントカの社会学」という類の本は苦手である。哲学的思弁が過剰な本か、あるいは、ジャーナリスティックなルポルタージュか、だいたいはこのどちらかである、というのが私の「ナントカの社会学」へのある種の偏見。

 でも、本書はそんな私の偏見を打破してくれた。美容整形が巷間流布されているような「劣等感の克服」などではなく、「違和感を修正」し、「本来の自分に戻ったというストーリーで、アイデンティティの一貫性を担保」するという結論。アンケートやインタビューに基づいた説得力のある鮮やかな結論に驚くとともに、久しぶりに学術書を徹夜で読むという知的興奮を味わうことができた。
 そうは言っても男性にもてたいからじゃないか、という想定される反論にも著者は答えをあらかじめ用意している。整形したい理由を聞いたアンケートのなかで男性と女性の差が一番あるのが「異性にもてたいから」という項目で、女性は「自己満足のため」「同性から注目されたいから」と答え、男は「異性にもてたいから」整形をしたいと答えるというのである。「異性にもてたいから身体を変える、という発想自体が男性的な身体意識」、と著者はバッサリと世の男どもを斬っている。う〜ん、確かに女性は男が考えるほど男のことを考えてないよね。かくいう私も、男にもてたいからじゃないかと思っていた世の男性の一人で、バッサリ斬られてちょっと知的な快感。ハイ、著者の言うとおり、男ってバカな動物です。

 本書の後半は、明治から現代までの化粧品広告の分析を通して身体意識をさぐる、というものであるが、前半部分の美容整形に関する研究の延長線上にある研究でもある。膨大な量の明治以来の化粧品広告を身体美という観点から分析し、著者は「自然」と「科学」、「あこがれ」と「身近さ」、という相互に対立する4つの要素を抽出する。そしてその強弱は時代のなかで変化していると。
 「あこがれ」と「身近さ」については、現代は後者の要素が強くなっているという。「あこがれ」という容易に手にはいらない美を表現する要素と、「私自身を変えるのではなく、私がすでに持っている魅力をせいぜい引き出す、高めるもの」という「身近さ」の要素。明治・大正期は「あこがれ」の要素が強く、昭和期、とりわけ1970年代以降は「身近さ」の要素が強まってきており、80年代から増えてきた美容整形の記事とも通低しているという。美の平等主義とでも呼ぶ意識変化。
 
 なるほど、と納得するばかりである。多くの女性が美しくなり、輝く時代。誰でもが美しくなれる時代。美はもはや一部の人の特権ではなく、誰もが手にいれることのできる権利となったのだろう。美の平等主義、美の民主化、そんな時代になったと率直に喜ぶべきなのだろう。でも、「私、キレイでしょ」と誇示する女性より、「私なんかそんなに美しくないし」と恥じらう女性のほうに魅力を感じる私としては、ちょっと淋しいのですけどね。
 ともあれ、膨大なファクトに基づきながらも、ファクトのなかに埋もれることなく明快な論理を提示している本書、学者だけでなく、女性を相手にしたビジネスをしている人にとっても、たいへん参考になる本だと思います。また、学術書なのに、推理小説のようなスリリングな知的興奮を味わいながら女性の心理を学ぶことができるので、女ってわからんなぁ、といつもぼやいている男性諸氏にもおすすめである。

不安定なよりどころは軽やかさを許容する ★★★★☆
著者プロフィールによると専門は現代文化論で、単著は他に『恋愛の
社会学』がある。
美容整形と化粧品広告の分析をもとにして現代の身体とアイデンティティ
をめぐる問題を扱っている。美容整形を扱った第1部と化粧品広告を扱った
第2部の2部構成で、前者はこれまで発表した論文をもとに大幅に書き加え
たもの、後者は博士論文の一部を修正したものであるという。本論の分析
には加えられていないが、附録に海外で実施したインタビューの記録が紹介
されている。
分析そのものは、身体とアイデンティティ、その背景としての社会構造に
対して真正面からぶつかるような形になっており、筆者の論に私が賛同し
ているかどうかは別として、好感がもてた。また、文章表現は地味だがその
ぶん明確で、解釈の際には予期できる反論に対するエクスキューズが挿入
されていて、周到に検討した様子がうかがえる。

本書でもっとも興味深いのは、身体とアイデンティティに関する議論であ
ろう。身体の直接的な加工を施した美容整形実践者たちの語りから、「心身
二言論」とのズレを筆者は指摘する。筆者によると、従来、美容整形は身体
を加工することで内面を変える、あるいは内面に沿うように身体を加工する
という動機で説明されていた。これはどちらも、内面と身体の一方が確固と
したアイデンティティのよりどころとみなされた上で成り立つ話である。
しかし、インタビューを通してみえてきたのは、そんな確固としたものに
依り立たない美容整形経験者のとらえ方である。筆者はこれをアイデンティティ
の置きどころが「行為」「感覚」にあると結論付けている。確固たる「存在」
ではなく、運動体(?)としての「行為」や「感覚」に求めているのは面白
かった。
ただ、疑問点がないわけでもない。「行為」や「感覚」という言葉はニュア
ンスで何となくの理解はできるが、「心身二言論」から脱却するような明確
なパースペクティブになっているのかわからなかった。本書では「内面」と
か「感覚」とか「アイデンティティ」とか様々な表現が使用されているもの
の、著者の定義というか、そこまで厳密ではなくても使い分けの線引きが曖昧
だった。そのため、「感覚」と「内面(精神)」はまったく異なるものなの
かとか、「行為」にアイデンティティが宿るとはどういう事態かとか、まだ
まだ著者の意見を聞きたいところも残った(精神とか身体と表現されるもの
との距離はその軽やかさからある程度理解はできるのだが)。
「私」をつくる美容整形 ★★★★☆
美容整形に対する現代人の意識調査にもとづき、現代社会における人々の身体感覚や自己像のあり方を考察した作品である。また、近代日本における化粧品広告の変遷から、女性の美しさ(とそのつくり方)に関する語り口の変容を明らかにし、その時代的変化が美容整形についての意識の現在と密接にリンクしていることを指摘する。
美容整形は、しばしば、自分のルックスに対して劣等感を持っている人々や、異性にモテたい連中が進んで行っているものだと考えられがちだが、必ずしもそうではないらしい。すなわち、自分の外見にそこそこ自信がありまた他人から褒められる人でも、より「理想」の自分に近づくという自己幻想に魅惑されて、あるいはお気に入りのファッションやメイクが似合うようになるために、あえて整形をしているのであって、現在の美容整形の理由は、主に「自己満足」という点にある、という。
まあ、そういう理由から整形するゼイタクな人たちもいるだろうな、と思ったし、そこから自己の身体パーツの加工や評価による自己確認こそが人間のアイデンティティの本質、といった論点を導きだすのもなかなか説得力があったが、どうにも違和感が否めないのも事実である。やはりブス(ブ男)からの脱却、というのが美容整形の根本的な存在理由ではないか。著者がちゃんとインタビューした人々は、わざわざ美容整形についてのインタビューに応じているという時点で、そりゃコンプレックスの少ない人だろう、と思えてしょうがない。深刻な劣等感から整形に至った人たちは、その経験をフォーマルな場で語ることには躊躇しがちであろう。
ともあれ、本書は美容整形に関する学術的な本として日本では今のところ希少なものであり、独自の見解も提示されているので、それなりにおもしろく読めるはずである。