1980年
★★★☆☆
1983年に情報センター出版局から出た単行本の文庫化。ただし、2篇が新たに加えられており、そのため「新版」となっている。
もともと雑誌『フォーカス』に連載された写真・エッセイである。しかし、あるとき広告主のサントリーの逆鱗に触れるような記事を書いてしまい、中途で打ち切りとなってしまったことでも有名。
内容は、1980年前後の世相を切り取っていくというもの。なかなか大胆な取り組みが多くて面白いが、時事的なネタが多いので、いま読んでも分からない部分も少なくない。
また、藤原氏の場合、旅行記にくらべて、こうした文明論的な文章はあまり上手くない。切れ味がいまいちだ。
衝撃の1冊だったなー
★★★★★
高校卒業してぼんやりすごしていた頃に、母親が気まぐれにすすめてきたのがこの本でした。まさか”本”を読むことで平手打ちをくらったような衝撃を受けることがあるなんて想像もしなかった。いまは子供もできて藤原さんワールドはいったん卒業した気分なのですが、このM・Tのくだりの入った東京漂流を友達に無理やり貸したまま行方不明になっていたのをふと読み返したくなり買いなおしました。かなり刺激がつよいですが若い人におすすめです。
病める日本社会の解体新書
★★★★★
狂い始めた日本社会。なぜ日本社会はおかしくなったのか。
「臭いものは日常の裏で秘密裏に進行させようというシステムが
暗黙のうちにできあがっている」(豚は夜運べ)
それを鋭利な文章と写真で、
むりやりひっぺがし、化けの皮のはがしたのが、この東京漂流だ。
「生が見えないと死が見えない」
日本社会が病んでいく原因を、
生死を隠し、社会をソフトケートしていったことにあると考え、
ニンゲンを食らう犬を世に解き放った。
そのインパクトたるや相当なものだっただろう。
現代日本を考える上で、
一つの金字塔を打ち立てた作品です。
ぜひ一度読んでみるとよいと思います。
東京漂流
★★★★★
著者の作品はとにかく重い。無菌室のような現代日本を何気なく生きてきた私にとって、この作品は人間として生きていくために不可欠なひとつの重要な視座を与えてくれたように思う。
特に「熱狂」の章に見られる、グリア行為をめぐる著者とマンジュールの対話は、いつの時代においても色褪せることのない、揺るぎない普遍性を持っている。また、「ニンゲンは、犬に食われるほど自由だ。」という過激な文と衝撃的な写真は、正常な死をも汚物として隠蔽する異常な日本社会を中和し、隠蔽されていることにすら気付かず日々を送る我々の意識を覚醒するに十分な重みをもっている。
東京という大都市と四つに組んで戦った男たちの情熱に敬意を表したい。そしてこの日本という国が、著者の表現活動を受け入れられる懐の深い、成熟した国になることを願う。
それにしても、―「いつくしみ」は人を変える、だが「憎しみ」の言葉は人を変えない。―という、あとがきに付された一文が当時の日本のみならず今日の世界をも鋭く批判しているようで、読後しばらく頭を離れなかった。
・・・
★★★★★
1980年代、バブルに浮かれる東京の裏側に隠された不毛を写し、描く一冊。文章主体だが挿入された10数枚の写真のインパクトは強い。秋川峡谷バスガイド死体遺棄や金属バット殺人などが特にそうだ。クライマックスはしばらく筆者がマスコミからほされる原因ともなった「犬に食われる人」のボツ決定顛末だ。それはサントリーオールドのCMポスターとして意図されたもので、試作品では膨れ上がった人間の死体に狼のような野犬の群れが踵からかぶりついているという壮絶な写真の横に可愛い丸いウィスキーボトルが写っており、「悠久のガンジス、犬に食われる人、自由だなあ、インドという国は・・」というブラックユーモアかと疑うようなキャプションがついている。編集者がこれはお茶の間にふさわしくないと考えるのは無理からぬ事だが、問題は経緯であって、そこで作者の九州人らしい気骨が示されていて好感がもてる。使われなかったとはいえ、いや、むしろそれだけにこのポスター一見の価値ある。