連載のあるべき姿。
★★★★★
「腐敗」
朽ちて悪臭を放ち、カタチを失くし崩れていく。
それは、負のイメージに他ならない。
しかし彼女の手にかかれば、それは甘美で豊潤で、
手のひらにのせて愛でたくなるモノであるかのように映る。
この作品に限らず、小川洋子氏の描写にさるきちは酔いしれる。
小さな物体やさりげない風景の
息づかいまでもが聞こえてくるよう。
本書はサイコホラーの短編集。
冷蔵庫の中で死んでしまった男の子、
心臓を入れる鞄をつくる職人、
拷問博物館を営む老人、
ファーストフード店のゴミ箱に捨てられた
ケチャップまみれのハムスターの死骸、
大きな屋敷の中庭で息をひきとるベンガル虎。
トラック事故で道路にぶちまけられた真っ赤なトマト、
廃墟となった郵便局にいっぱいの甘酸っぱいキウイ。
不気味なのに美しく、官能的とさえいえそうな、
そんな物語ばかり。
骸骨の人形が備えられた時計台がある広場。
その広場を囲む小さな町の
あちこちで生じている「死」と「弔い」。
言葉や表現は慎み深く上品で、どれも素晴らしいです。
さらにね、
すべての短編が絡み合い、伏線が張られているのです。
短編でこれほど満足感を与えてくれるものって、
少ないんじゃないかしら。
一編を読み終えた後、前の作品を読み直したくなるのね。
週刊春秋の連載をまとめたものなのですが
“連載”のあるべき姿を見たような気がします。
飲まれます!!
★★★★★
この作品付近の作風が一番好きです。彼女の独特な文章構成、言葉の選び方。繊細ながら生々しい表現の数々。この世界観を文章にして形にできるのは小川洋子、彼女しかいないと思います。彼女の作品の中で通して出てくるトラウマ的な設定、構成を楽しみながらこの世界に飲まれてください。言葉の美しさ、残酷さを表現できる作家さんとして尊敬しています。
秀逸なタイトルと奇妙に繋がる短編たち
★★★★★
秀逸なタイトルに惹かれ購入。内容もタイトルに負けない濃厚さ。一つ一つの短編が絡まりあって不思議な世界観をつくりだしている。その世界はドロドロとした粘液により繋がっているように思える。人間の思い、過去の思い、そしてどの短編にも「死」が濃厚に匂ってくる。しかし、その「死」の匂いに惹かれてしまう自分がいる。
本作はホラーや恐怖小説ではない。しかし、読者の心に確実に「恐怖」の足跡が残る。
この「恐怖」が一番ヤバイんですね。確かなことは、怖くて面白い、傑作小説集ということです。
静かな弔いの短編集
★★★★★
非常に静謐な文章で、たくさんの弔いが時計塔のある街を中心に綴られ、しかも全ての作品がリンクしている。小川洋子独自の文章。そして、実に緻密に、計算されて、あるいはいかにも偶然のように語られていく様々な人間模様。不条理でいて今の現実社会においてのある意味現実味を帯びた作品群は、非常に魅惑的で、それでいて恐れるべきものであるかもしれない。
幻惑の輪の中に・・・
★★★★☆
死と弔いに関する11の物語。
各作品が場所やモノでつながる連作のようなそうでないような短編集。著者の他の短編集にも見られるが、作品の配置が時系列でなく、ある作品に前の作品が「小説内小説」として登場したりといった込み入った構造が歪みをつくり出し、幻惑される気分になる。そして最後の作品が最初の作品に連なり、幻惑の輪の中に読者は閉じ込められる・・・
一篇一篇に関して言えば、連作的なつながりとは裏腹に、バラエティに富んだ内容で、さまざまなイメージの世界が展開される。現実的な筆づかいで幻想的なイメージを立ち上げるのは著者ならでは。
ところでタイトルの一部、「みだらな弔い」というのはどうだろう。「みだら」というよりむしろ、各々の死に対して、必ずしも性的とは限らない、ふさわしい弔いが行われている気がする(もちろん倫理的な意味ではなく)。これもまた、著者による逆説的な表現なのだろうか。