ほろ苦さが胸に沁みる、大人のための子どもの話。
★★★★☆
子供達に勇気を与えるドイツ児童文学の巨匠ケストナーの雑誌掲載されていた初期短編集。本書収録の作品群は、後年のケストナーに見られる心温まる作風ではなく、寧ろ正反対でアンハッピーエンドに終わる物が多くて、些か意外の感に打たれ驚きました。それは自身の不幸な少年時代が投影されている為であり、父母のイメージも喜びよりも悲しみにつながる人物像として描写されています。
表題作『サンタクロースにインタビュー』:サンタのおじさんに秘密を教えてもらうメルヘンのような物語だと思ったら・・・。『レコードにのせたごあいさつ』:夫婦がおばさんにレコードで録音したメッセージを贈ろうと考えたのは良いのですが・・・・。とんでもない結末が待っています。『ある人生』『模範生』:真面目に働くだけの人生が辿り着く哀しき末路は・・・・。『ペーター』:学校から帰るとママが消えていた。その時急に警官が現れ、一緒に母親の行方を捜す。数少ない幸福な終わり方なのですが、途中で〈悪い親のための兵舎〉で子供を苛める親が逆に残酷な刑を受けている場面に気分暗澹とさせれらます。
ブラックユーモアや悲観的な考え方に貫かれた短編が多いですが、合い間には面白くて愉快な悪戯が顔を出す作品も幾つかあって、ほっとさせてくれます。本書は苦くて子供が読むには相応しくない本かも知れませんが、大人には間違いなくさまざまな思いを胸に抱かせてくれる、味わい深い人生の書と言えるでしょう。