他の訳書では「人間嫌い」というタイトル名で有名なモリエールの喜劇。というより悲喜劇。人間不信に陥った青年貴族の行く末は結局、恋い焦がれる破天荒な女性にさえも裏切られてしまうというお話。はっきり言って、それほど笑える箇所の少ない妙に深刻な戯曲である。

　女性同士の誹謗中傷の応酬の激しさは、350年近く前も今もさほど変わりはない。
恋多きヒロインの未亡人が最終的に選んだお相手は、主人公の親友だったというのもまことにもって皮肉である。

私もモリエールの作品は結構読んだのだが、この作品は身につまされるような寂しさを感じる。
世の中の潮流に順応しない自分のペースでしか生きられない不器用な主人公。恋する相手は華やかに生きていたい女性。欺瞞に満ちた恋。そして軽薄な友情。その結果としての人間不信。人間嫌い。
主人公はさびしく世捨て人のように生きようとするが、その姿は読者に自分自身の姿を映す鏡を提示しているかのようにさえ感じる。