早逝を惜しむ天賦の才
★★★★☆
山川方夫はメジャーな作家ではない。しかし、中学校の検定教科書のいくつかに載せられている『夏の葬列』の作者といえば思い出す人もいるかもしれない。彼の描く多くの主人公の根底は誠実である。しかし誠実であるが故に狂った世の中や人々の中で現実を直視することができずに浮遊している。真に信ずるものもなく、かと言って人を拒絶することもできない。この本の題名の安南の王子バオ・バオも、そんな魂をもてあまし、自分が行くべきところを探していた寂しい魂の持ち主だったのかもしれない。この作品は山川方夫の21才の時の作品である。同載の『バンドの休暇』は20才の頃の作品、『最初の秋』は事故で亡くなる数ヶ月前の34才の頃の作品ということで、方夫の初期と晩年(?)の作品を読み比べてみるのも面白い。山川方夫がもし長生きしていたならば……と思わずにはいられない天賦の才を感じさせる。できれば、この後か前に『煙突』『海岸公園』などもあわせて読んでもらいたい。彼の作品はいずれも派手さはないが、心の中に忘れられない余韻を残すことだろう。