いまも漢江は凍りますか?
★★★★★
ヴィヴァルディの『四季』は、フェリックス・アーヨ&イ・ムジチ以来、いろいろと聴いてきたが、やはりチョン・キョンファは別格中の別格だ。このディスクの最後に入っているチョン自身のナレートと演奏による描写音楽的な作品紹介は、チョン自身の本編演奏をよい意味で裏切っている。純然たる「音楽」! 純音楽の極みがここにはある。「春」の冒頭からまるで違う。カルミニョーラとかビオンディとかも面白がって聴いていたが、あれらはすぐに飽きがくる。
ところがその本編演奏にも増して感動的なのが、先に触れたチョン自身による作品紹介なのだ。春から冬まで全楽章を、主なフレーズごとに弾きながら紹介してゆく。
冬の第3楽章。あの荒々しいアレグロでチョンは話し出す。
「最近も漢江は凍りますか?」と。美しいハングルの響きとチョン・キョンファのやさしげな声。ほとんど涙ぐんでしまう。この稀代の天才ヴァイオリニストは、何を思うのか?
今はドイツに住んでいるのだろうか?
評者は『四季』とバッハの「シャコンヌ」などで構成されたチョンのコンサートに接したことがあるが、前者は勿論素晴らしいが、後者の世界の空気が変わるような崇高さを忘れられない。