リテラシー入門
★★★★☆
教育問題の周りをぐるぐる周っている感じの本。
教育問題そのものについては、例え話が多く、実例に乏しいのが少し気になるところで、ちょっと残念。
やはりこの本はメディアリテラシーの入門書としての価値が大きいのではないでしょうか。
しかし、そういった意味では、例え話もわかりやすく、特にアカデミックな議論に馴染みの無い、私のような人間にでも楽しめました。
教育問題に限らず、世論やマスメディアを批判的に読み解くコツについての、平易かつ有益な良書だと思います。
リテラシー 大事なはずで 星4つ
★★★★☆
1.内容
教育問題は、誰もが経験しているので(児童等で)、当事者意識を持ちやすい。しかし、世間で流布している教育言説は、専門家から言わせると、間違っているものが多い。事実認識はどうか、原因の説明や評価の仕方はどうか、解決策には問題はないのか。間違った見解を持たないためには、教育問題について、批判的な、リテラシーを持って分析することが大切である。なお、第7章は、伊藤さんの専門であろう、心の問題について。ブックガイドも充実。
2.評価
本書を読めば、世間で流布している教育言説について批判的な見解を持てるように思う。ただ気になったのは、ネットについての評判が悪いこと(たとえば、p249。もっとも「クズ本が多い」(p249)とも書いてはあるが)。ネットといわゆるマスコミは確率の問題であり、ネットがダメであることを強調するのは、リテラシーとは対極である。ブックガイドに出ている、後藤和智さんや、管賀江留郎さん(本書の誤植を直してあります)は、ネットで評判になってから本が出版されたはずである。リテラシーを強調する本なのに、この姿勢はいただけない。この欠点で星1つ減らし、星4つ。
教育問題に関する言説を読み解く基本的姿勢とは?
★★★★★
いろいろな教育問題を取り上げて切り込んでいるのかと思いきや,具体的な教育問題については特に深くは語られていない。そうではなくて,教育問題に限らず,さまざまな社会的事象に関する言説を読み解く際の,リテラシーについて述べたものである。非常に噛み砕いて書かれてあるけれど,内容はまっとうなものである。
教育問題って何だろう?そこから議論は始まる。多くの人が「教育に関して,○○が問題だ!」と述べることが,「教育問題」である,と。
また,何が教育に効果がある,ということを示すのは大変難しい,とも。要因が複雑に絡み合っていて,単純に○○のせいで××になった,とは言えるようなものではないからだ。少なくとも数値ですぐに示せるようなものではない。いっぽうで,多くの人が単純化した議論を求めたがる。自分の経験でものごとを判断したがる。
教育問題は一筋縄ではいかない。多くの言説が,そうした基本的な理解を欠いているからだ。本書では,(このシリーズで取り上げられているような)さまざまな教育問題を読み解く際の基本的姿勢を示している。
人は自分の見みたいところしか見ないから教育問題は間違う
★★★★★
「人は自分の見みたいところしか見ない」傾向にある生き物である。
しかもこれが、教育問題となると事態はもっと悲惨で,小学生のいる親、
大学受験生のいる親、プー太郎の子供を抱えている親、それぞれの教育を受ける立場にある子供.。
経営者,雇用者、大中小の会社員。教師,教育学者、カウンセラー,心理学者,識者という名の知ったかオッサンオバサン。
怪しげな言説・定説を流布するマスコミ。
それぞれが、見ている教育は実に狭い範囲で、しかも、そのなかかから「人は自分の見みたいところしか見ない」 から、
教育問題は誤った議論に陥るのだ。
と,ぼくは思っている.この本にはどう書いてあるのだろう。で,最後の方の頁を見たら
「教育問題に正答はない」と書いてあったので,信頼できるだろうと思うにいたり前の方から、順に読んでみたのである。
以下に心に残った点を抜き書く。(レビュアー要約)
・たくさん報じられる子供の自殺、2007年高校生205人が自殺しているが、その理由でもっとも多いのは病気の63人
進路入試が学業が48人、以下.親子関係、男女関係などが続きいじめは6人である。6人だから問題はないというのではないが、
ここで注意したいのはいじめによる自殺がなぜ大きく報道されるかである。それは世の中のひとが問題だと思っているからである。
・世の中に流布している専門家という人の教育に関する言説は.注意深く疑ってかかれ。
(レビュアー註・もちろん本書も含めてである)
・教育問題を「氷山の一角だ」など過度に一般化して語るのは間違いである。(レビュアー註・教育問題だけではない)
・教育の力だけを過信するな。
・「心の問題」という落とし穴に落ちるな、カウンセラーは何でも解決できるわけではない。
(レビュアー註・「市長大変です.小学校で児童が児童5人をさしてまだ暴れています」
『それは大変だ、すぐ心のケアをしなさい」というのは僕の作った笑い話です。)
というこの本は、教育から遠ざかっているひとにも、是非読んでもらい教育問題の現状を分かって欲しいと思います。
安い新書か文庫で再版してください。
冷静に教育問題を見よう! このわかりやすさに脱帽
★★★★★
教育問題について、大雑把で無責任な言説が溢れている。
現代日本の教育は悪い、昔は良かった、外国はちゃんとやっている・・・と。
少し手間をかけて、ここ50年ほどの歴史を調べれば、そのようなことは大間違いだとわかるはずなのだが。
かくして、真面目で謙虚な現代の若者たちは、彼らがゆとり教育を始めたわけではないにもかかわらず、「ゆとり世代」と名付けられ、馬鹿にされる。たくさんの必要単位を真面目に取得し、様々な実習に明け暮れながら、意欲をもって教員になった若者は、上の世代たちから「最近の教員は・・・」と目の敵にされる。
凶悪な少年犯罪は決して増えていない。家族を大事にしようと考える人の比率は上昇している。
ごく稀に、信じがたいような恐ろしい事件が起こることはあるが、その頻度は長期的にみると小さくなっている。
だから、お願いだから冷静になってほしい、めったに起こらないような特異な事件を、「氷山の一角」などと呼ぶのはやめてほしい。
2人の著者の、切実な願いが込められた本であると思う。
中学生や高校生にも十分読めるわかりやすさに感服する。池上彰かと思うほどわかりやすい。ユーモラスなイラストが笑いを誘う。
教師を目指す人、教育問題を考える大人にはもちろん、中学生や高校生にもお勧めしたい。
これを読んで、「私たち今の若者は、長期的に見たら、かなりまともなんだ」というささやかな安心感を持っていてほしい。