多田武彦の代表的な作品群
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『雪国にて』『人間の歌』『雨』『草野心平の詩から』の4つの無伴奏男声合唱組曲を収録しています。
男声合唱を愛するものなら『雨』は説明不要の名曲集でしょう。終曲の八木重吉の詩による「雨」の素晴らしさは、一度聞けば多田武彦のとりこになるような魅力を秘めています。「武蔵野の雨」も同様で、男声合唱と最初に触れるとき、これらの曲は外せません。
『雨』と『草野心平の詩から』は、昔は合唱名曲コレクションというピースで出版されていましたが、改めて組曲集の中にいれることで入手しやすさを緩和したのでしょう。
『草野心平の詩から』も市販のCDに収録されたり、多くの団体によってステージでかけられてきました。終曲の「さくら散る」の美しさは楽譜からも伺えます。視覚的な印象をそのまま演奏に表現するのは結構大変ですが、きまればこれほど演奏効果の高い曲も少ないと思います。
堀口大学の『人間の歌』も名曲だと昔から愛唱しています。冒頭の「縫ひつける」は、堀口大学の辛らつな詩を見事に合唱にしています。「涙の塩」も心にしみる曲です。「浜の足跡」も美しいハーモニーの曲です。終曲の「年の別れ」は、12月に大学の男声合唱の定演があれば、よくアンコールで歌われた曲です。しみじみした名曲で実に美しい和声を持っています。1ケ所、歌詞の問題で歌われなくなりましたが大変残念なことです。歌いついでほしい名曲のひとつですから。
こうして振り返れば男声合唱の世界においてもし多田武彦氏がいなければどれだけ淋しいラインナップになったことかと思います。男声合唱が低調な今、再びあの煌くようなハーモニーの醍醐味を聴かせてもらいたいものです