あまり取り上げられることのない多田作品
★★★★☆
収録されている組曲は、『海に寄せる歌』『わがふるき日のうた』『追憶の窓』でいずれも三好達治作詞によるものです。市販の音源がないこともあり、取り上げられることが少ない曲集ですが、どの組曲も音域は無理がなく、ハーモニーも平易でありながら、男声合唱の醍醐味を味わえる曲集だと思っています。
作曲者自身の解説によれば、「昭和51年から52年にかけての作品で、『わがふるき日のうた』は外山浩爾先生指揮の明治大学グリークラブにより、『海に寄せる歌』は天野守信先生指揮の祟徳高等学校グリークラブにより、『追憶の窓』は松川裕君指揮の関西大学グリークラブにより、それぞれ初演されて以来、愛唱されてきました。」とあります。つまり多田武彦氏の金字塔のような昭和30年代の作品群からは少し時期が経過しています。多田氏にとっても40代後半、銀行員としての仕事が多忙を極めたころかと推察され、見事に2足のわらじを履いたものです。
いずれもが無伴奏合唱組曲で、歌いこむにつれ愛着がでてくる作品でもあります。『わがふるき日のうた』の5曲目の「鴎どり」、『わがふるき日のうた』の1曲目の「甃のうへ」などは、多田武彦節がよく出ている作品です。単純な進行なのに心地よくハモル快感は、多田氏の作品に共通する特徴だと思います。『わがふるき日のうた』の6曲目の「鐘鳴りぬ」も変化に富んだ曲で、男声合唱の厚みをいかした作品でしょう。