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私小説―from left to right (ちくま文庫)

価格: ¥924
カテゴリ: 文庫
ブランド: 筑摩書房
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「アメリカに住む」という孤独 ★★★★★
主人公は筆者そのもの、美苗である。
父は会社を辞めて、アメリカ永住を決意するが20年経った今、ボケが進んで施設に入っている。母は年下の男と出奔してシンガポールに住んでいる。
水苗は13歳の時にアメリカに来ているから今は30代前半か。ただ一人の姉、奈苗は離れて住んでいるが、孤独を紛らわすために長い電話をかけてくる。最初はこの長電話の会話で話が進行する。このあたりまでは、私はなんてつまらない本だと思っていた。
ところが、美苗の学校生活を通じてアメリカにおける日本人の地位と言う物が、次第に明らかになったいく。
白人の目から見れば、日本人なんて韓国人とも中国人ともとれる只の「東洋人」に過ぎない。白人と対等につきあっているつもりでも、黒人、ヒスパニックなどと同じに東洋人という枠に入れられた異人種にすぎない。
日常生活において、次々とその事実が明らかになっていく。
姉の奈苗が白人仲間とブラインドデートに誘われて,嬉々としていってみたら、醜い韓国人男性をあてがわれた悔しさ。デートから帰ってきてワンワン泣いた奈苗の悔しさは手に取るように分かる。
アメリカの日本人は日本人社会に住んでいるから日本人なのだ。白人社会に入り込もうとすると、目に見えない壁によって、被差別を認識させられる。
しかし、この孤独感は異国人だけのものではない。アメリカに住む白人でさえ、社会の不条理に対する孤独感にさいなまれている。本書はアメリカと言う社会に住む場合の孤独感をじわじわと見せ付けてくれる。
私小説だけど「続明暗」、「本格小説」より好きです。 ★★★★★
親の仕事の都合で12歳の頃に海外(アメリカ)に移り住んだ、一人の典型的な帰国子女の私小説。

現地の日本人学校か、現地校へ進む、という道がある中で、主人公の「美苗」は現地校に進んだ一人だが、
12歳という物心のしっかりついた時期の移住は興味深い。
それより前ならあるいは故郷を想わず、外へ目を向けたかもしれないけれど、
主人公の心は異国に住み続けながら常に故郷を想い、
先に動けなくなるなかで12歳から大学院に今いるこれまでを振り返り、自分という個の在り処を探していく。

「美苗」の妹「奈苗」も、そして父と母も、異文化のなかで生き方を探す。
その周りでなに不思議なく続いていく「日本」である人・「現地」である人の、
普通のように過ぎていく普通の人の生活に、ときにケチをつけ、ときにすがる。
この感覚は複数の国をバックパックで旅をする感覚とは根本的に違い、
そこで暮らしていかなければならない「定住」という形で感じられるものだろう。

文化や生活、言葉や感覚、といった異文化に体を浸したときの、
言いえない不安・不満・個でいることの頼りなさ、といった先に動けなくなる痺れは本当に見事に描かれています。

「帰国子女」の生活や感覚に興味がある人は一度読んでみると、
見事な書き筋で引き込まれるのでまさに体感できると思います。
一人でじっと座ってじっくり読みたい。 ★★★★★
何度も何度も読み返してしまう本。

私は筆者のように、少女時代にアメリカに渡ったわけではないが、アメリカに住むことを選んでしまった日本人のうちの一人なので、あまりにもこの独特の物悲しさとか、孤独とかが手に取る様に分かってしまう。
私の言う、「アメリカの孤独」は日本で住む日本人に伝わらない事が多い。でも筆者は、その文才で上手く時にポエティックに表現して痛い程のその日米の文化の違いを書きちりばめる。

アメリカにいればいるほど筆者の心と同調してしまって、最初読んだときより今のほうがもっと味わい深く、そして涙が出て来るくらいに美して悲しい。
繰り返し読んでしまった ★★★★★
父親の海外赴任で日本を離れてニューヨークに引っ越し、主人公は中学生でいきなり現地の学校に入れられてアメリカ暮らし。
これが1964年の東京オリンピック前の時代、主人公は100%アメリカに囲まれながら、英語とアメリカに拒絶反応を起こし、
家にある日本文学全集を読むことで自分を保って生きた。
そういう思い出話が20年目の一日を軸に書かれる。
アメリカに住む日本人が必ず通る異文化突入のズレの意識、本物の西洋は日本で思う西洋と違うとか.....日本語で話しかけても英語で答える姉とか。
せつない気持ちが美しい文章で書かれる永遠の名作。西洋に出逢う日本人は必読の本。
主人公=著者はついに日本に帰り『續明暗』を書いた。
これはなんで漱石の未完の遺作『明暗』を書き継ぐようなことをしたか、そのワケを書いた本だと思ってもいいだろう。
興味深い「左から右へ!」 ★★★★★
 既に何年も前に単行本とか新潮文庫で出ていたのを知っていたら、もっと早くに読んでいただらう。今回、同じ著者の別の本が話題になっているので思わず衝動買いをしてしまったが、正解であった。なかなか興味深いインテリ「帰国子女」の悲喜こもごもな留学生活の一端を日本特有の小説形式である「私小説」という様式で書き綴っている。

 留学生である一方で「東洋人」であり、「東洋人」であるということは「黒髪の」「黄色の」「有色人種」であるということである。ということは「黒人」と同種に扱われて仕様がないと思われていた当時の世相・時代背景がある。

 だから現地の日本人は、アメリカ人に侮蔑されるのを「住友さん」とか「松下さん」とか「三井さん」のように日本人仲間で徒党を組むことによって緩和しようとしている。おかしなことに、著者を含めたそうした日本人「ムラ」の村民が、韓国人とか、中国人、さらには他のアジアの国の人間に対して軽蔑の目を向けている。現地のアメリカ人にしてみれば、同じ「有色」人として、十派一絡げに扱われているのに・・・・・。

 美苗(Minae)とその姉・奈苗(Nanae)の英語交じりの日本語での会話が中心になって話は進む。英語で書き表されている部分と日本語で書き表されている部分の違いは、何か基準があるのだらうか、英語でなければ表現できないようなことなのか、外国暮らしの長い本人たちの拙い日本語でも会話に支障がない部分なのであろうか。英語の部分は、それほど難しいものではなく、そこそこ英語ができる人なら、辞書を引かなくても充分にその面白さが理解できる。

 「私小説」であることには間違いがないが、本書は日米の文化人の意識の違いを青春時代を現地に暮らしたものでないと書けない瑞々しさに溢れ、読むものを引き付けて止まない。