西村京太郎のトラベル・ミステリーの評価を高めた最初の作品
★★★★☆
彼のトラベル・ミステリーの最初でかつ今なおベスト・セラーを続けている作品です。1978年に刊行されて以来、相当版を重ね読まれてきた作品ですので、現在の量産作家としての西村京太郎とは一味違う風合いが感じられ、違う面白みを持っていると思いました。
作品の質は構想にかけられた時間と熱意によって高められていくと思います。売れない時代、すなわち様々な職業を経てきて、やっと小説家として評価されてきた頃の西村京太郎です。初期の作品はある種ゴツゴツしたところが感じられますが、近年の作品とは違う迫力が伝わってきます。それゆえ、この頃の作品は再読に値すると思っていますので。
今はもう廃止されている西鹿児島行き寝台特急(ブルートレイン)「はやぶさ」を舞台に繰り広げられます。途中駅のホームで到着するブルートレインを待ち受けているカメラ小僧の描写は当時の熱狂ぶりを上手く伝えていますし、隔世の感がありました。寝台特急の個室寝台の室内描写、食堂車でのメニューと値段、意外なところから30年前の寝台特急の状況を知るエピソードが見えてきます。
第1作ですが、警視庁の十津川警部もカメさんも登場していますので、最初から西村京太郎のトラベル・ミステリーのスタイルは出来上がっていました。その特徴とも言える読みやすさは、最初から魅力となっています。
推理小説ですからこれ以上は書けませんが、この頃の作品は、ミステリーファンを一定満足させるものがありました。