開高、慧眼
★★★★★
「ずばり東京」とならぶルポ集の傑作。
青山ボウリング場、船橋ヘルスセンター、釣堀、ナイター映画(オールナイトね)・・・50代中盤以上の人にとっては、多少なりともなじみのある場所が取材対象となっている。当方、「すがれた昭和のオジサン」ゆえ、本書を読んで、なつかしくなかったといえばウソになる。が、同時に、「ショボイ場所で遊んでいたことよ」と苦い笑いも浮かんできた。21世紀の今だからそう思うのである。開高健は、ちがう。リアルタイムでショボさを見抜き、閉口しつつもほほ笑んでいるの趣が伝わってくる。つまり、開高の射程は、「遊び下手の日本人」のメンタリティにおよんでいるのだ。慧眼の批評である。だから、対象は消え去っても、開高の文章は生きつづけている。
「日本人の遊び場」が書かれて47年。依然として、日本人は遊び下手だ。いや、PCとケータイの普及で、「遊び場」自体が衰弱している。遊び場所は、自室。オモチャは、ケータイか、PC。「すがれた昭和のオジサン」は、本書の冒頭に引用される植木等のように「わびしいなぁ・・・」とつぶやくが、それも世の趨勢、「引きこもり」が、日本人には合っているのかもしれない。