「鉄」だけでなく
★★★★★
タイトルからは、殖民鉄道にこだわったマニアックな本という印象を持ったのだが、この本はより幅広い観点で惹かれるところが多かった。旅行記としての風景描写はもちろんだが、サラリーマンとしての経験を踏まえた著者の心象風景が心に残る一冊。
殖民軌道とは北海道開拓時代に敷設されたもので、正式な鉄道というよりは、開拓民が馬などの動力を用意して荷物を運搬するための鉄路。戦後は町営、村営などになって自走客車によって運行されていたようだが、自動車等にその使命を譲り昭和47年には姿を消した。
そういった殖民軌道の跡を自転車で巡るのが本書の骨格だが、殖民軌道の解説はあえて避けて、旅行中の風物や環境に関する発見の記録とそれぞれの場面での著者の内的世界の描写を肌理細やかに行なっている。著者が色々と思い悩んだり、爽快感を味わったりするところを読者としても同じように一喜一憂することができる。
平成13年から17年までの4回の旅の記録だが、採り上げる日を思い切って絞り込んだり、各回における心理面でのテーマをうまく伏線として織り込んだり、作品としての完成度も高い。最近よくある、日記の延長のような旅行記とは一線を画している。
著者は50代のサラリーマンで本書が第一作とのことだが、50代でサラリーマンを辞めてからデビューした宮脇俊三に近い味わいを感じさせるところから、第2作にも期待。