窓から指す日の光に照らされた部屋のような作品
★★★☆☆
不倫関係と仕事から抜け出して、好きだった祖母が澄んでいた北海道・小樽の家で、たった一人初恋の人を待つ貸本屋を開業する30歳女性のお話。
……身も蓋もない書き方やな……
他のレビュアーがヒーリングミュージックと書いていましたが、まさにそういう小説だと思いました。
情景描写は巧みですし、小樽の丘の上にある洋館に本当に行ってみたくなります。天井の高い部屋に時間旅行の小説が並ぶ本棚、大きな窓から柔らかく差し込む陽光、細い湯気が立ち上る紅茶の香り……あぁ、良いよねぇ。
各章を時間旅行の名作のタイトルを用いてみたり、仕掛けもふんだんに加えているのですが、何かこれというポイントが見つからないんですよね。時間旅行と重ね合わせている割には不発気味やし。
好きな雰囲気ではあるけれども、人にお薦めするのは難しいなぁ。
言ってみればヒーリングミュージック
★★★☆☆
企業社会をなんとなくドロップアウトしてしまったOLが
亡き祖母の家で、偶然出遭った力強い協力者とともに
開業し、公私共に成功するというサクセスストーリー。
といっても肩の力が抜けるだけ抜けきっており
SF的味付けも含め、その過程は予定調和以外何者でもない。
表紙も含め、文章にも無駄な毒が無く、
読んでいて極めて心地よい。
しかしそれ以上何かあるのかと問われても答えに窮す。
言ってみればヒーリングミュージックのような一作。
ふとした瞬間。人生の角に立って。
★★★★★
30歳になった主人公。ただなんとなしに過ごし、過ぎていく時間。
そんな彼女がとった行動は初恋の人を待つために
貸本屋を開くこと。
そして彼が好きだったタイムトラベル関係の本屋を実際に開き、
物語はその彼女を囲む人々とのやさしい関係を、
上手に切り取っていく。
人は、いま自分が置かれている場所は自分ではわからないのかもしれない。
きっと彼女は人生の中での曲がり角に立っている。とても大切な時に立っている。
その瞬間が垣間見えるようで、
そして応援したくなった。
「田村はまだか」はよかったのに・・・
★☆☆☆☆
たいくつ。。。そんな本屋、訪ねたくもならなかった。朝倉さんは光文社で書いてほしいな。
「ここにこられて、よかった」と思う。
★★★★☆
西日のような表紙の色。
作品に関わる小物がランダムに配されていて、愛らしい。
時をまたいで仕掛ける恋の続きと帯の惹句にある。
前作『田村はまだか』の緊張感溢れる「時間の仕掛け」とは異なるものの、
心の中でくすぶり続けた思い、時間というものを朝倉かすみさんは
またテイストを換えて料理してみせてくれた。
たったひとりの人を待つための「タイム屋文庫」を開くという柊子の思いつき。
時間旅行の本(CD、DVD)しかないのは、かつての恋人?吉成くんのことばを
忘れられなかったから。まったく何も考えちゃいないのだ。
祖母ツボミをして「考えなし」の「抜け作」と言わしめた性格は、30歳になっても
なおるはずもない。
それでも、仕事も不倫も清算し、亡くなった祖母の古い家に移り住んで
貸本屋を開店する決意は変わらない。
“市居のばあさん”と呼ばれていた祖母の人柄が、この柊子の抜け作ぶりを
周りの人にうまくフォローされるように導いていくのもなんだかおもしろい。
だいたい祖母ツボミさんの人生の破天荒ぶりからして、物語に精彩を与える
ものだ。大胆で、かつ愛すべきひとという印象だ。
柊子の思いがつまった店のためか、はたまた祖母が住んだ古い家のためか
タイム屋文庫を訪れる人々の心に起こる不思議なことは、
柊子の恋のゆくえとともにこの物語のもうひとつの大切な核心だ。
時を超えてつながるものはあった。「案外遠くて、案外近い」「ここ」を
見つけた柊子の、その思いがかわいいじゃないか。
ウィットとユーモアの効いたどこかドライな印象の文体が、
ロマンチックな物語にちょうどよいさじ加減だ。