シリーズ中の異色作。美少女とルパンの関係が微笑ましくなる
★★★★★
怪盗アルセーヌ・ルパンシリーズの中でも異色の一冊。心優しきルパンは、公爵と偽り、薄幸の美少女と出会い、彼女の苦境を救う。彼女に惹かれたルパンは彼女とともに八つの謎解きをする約束をする。
というように、今回は連作短編集で、しかもルパンは怪盗にも関わらず、何も盗まないどころか、凶悪な事件の犯人を警察の代わりに探したりもする。
相変わらず、薄幸の美少女に弱い優しいルパン。あとがきで作家の永井するみも書いているように、そこがただの泥棒とルパンの違いで、このシリーズの大きな魅力になっているに違いない。特に今回の『八つの犯罪』に出てくるオルスタンスという美少女とルパンのロマンティックな関係は読んでいても微笑ましくなる。
ルパンものではマイナー作
★★★☆☆
表紙の美しさ・懐かしさから手に取った。「そおいえば、ルパンシリーズではこれはまだ読んでなかったような、、、。」で、通勤電車内で通読。
んー、この南洋一郎の文章は翻訳とは思えない程こなれていて、読みやすいのだが、所々「あれ?」と思うような表現がある。例えば「出ていけがしに」(p.19)、「さいふかと思ったによう……」(p.121)、「さいごにうちころす殺人魔な何者だろう。」(p.125)、「元長官はおだやかにほおえんでいる。」(p.140)、「同情しずにはいられない。」(p.152)、「そんなのんきは話ではありません。」(p.297)
単なる誤植なのか、それとも筆者が意図的に書いた特徴的な文体なのか、版元でも判断しかねて、直していないのだろうか?
八つの犯罪譚からなる短編集なのだが、怪盗であるはずのルパンがレニーヌ公爵と名乗って、助手兼愛人のオルタンス嬢と共に、探偵役に徹している。その点どうもこちらの期待している「怪盗」ルパンの印象は薄い。それに各話のストーリー、トリックもまあ子供騙しと言って良いくらいの他愛無い物。ただ文章の力で「第六の犯罪 皇后のネックレス」なんかは結構、感動的に読まされた。
でも、初めてルパン物を読むのならやはり『怪盗紳士』『奇巌城』『813の謎』あたりがお薦めでしょう。