この本はカウンセラー自身が実践家の立場で書いている。しかし、体験書ではない。理論書でもある。しかも、カウンセリングにおける人間観がいかに企業における人事管理・人材育成と関連しているかが具体的に述べられている。その意味で、キャリア・カウンセラーを目指す人はもちろのこと、企業の人事スタッフにとっては必読書といってもいいであろう。

キャリア開発というタイトルになっているが、役割等級人事制度との関係にも触れており、意外と人事制度構築の際の参考書になると感じた。『役割等級人事制度導入・構築マニュアル』（日本法令）と合わせて読むことで、役割等級制度の構築方法も違う観点から理解できたような気がした。

キャリアがブームだ。だが、キャリアという言葉の定義は曖昧なままに使われているし、実際に個人が自分のキャリアを組織の中で展開し、あるいは組織が個人のキャリアを生かし、ともに、共生関係の中でよりよい状態へと移っていくためには何をどう考えればよいのか、実務面から語られることが少ない。
この本はあくまでも実務の目から、実際に組織の中で個人のキャリア開発の支援をしたり、キャリア・カウンセリングをしていたりする担当者の視点から書かれている。学術書ではないし、ノウハウ本でもない、キャリについて考えるための多くの視点と筋道が示されている実務書である。