アルゲリッチ、クレーメル、バシュメット、マイスキーが本作で目指したことは、シェーンベルクの言葉に集約されるだろう。1937年、シェーンベルクはこの「ピアノ四重奏曲第1番」の有名なオーケストラ用編曲版を仕上げ、こう語った――「この曲に関しては、非常にひどい演奏がまかり通っている。ピアニストは、優秀であればあるほど大きな音で弾くので、弦の音が完全にかき消えてしまうのだ。私は一度ですべての音が聞こえるようにしたかった。その意図は達成したと思う」。アルゲリッチとロシアのスーパースター級の弦楽器奏者たち3人も、その意図を達成した。すさまじいまでに自由奔放なフィナーレ――強打が執ように繰り返されるジプシー・スタイルの楽章――においてさえ、弦の音はハッキリと聞こえてくる。シェーンベルクがトロンボーン、シロフォン、グロッケンシュピールを伴うオーケストラを用いたのに対し、アルゲリッチは熟達したタッチとペダリングで勝負。彼女の生み出す音には、奇妙な官能性とツィンバロンを思わせる透明な響きがある。これを武器に、アルゲリッチは他の演奏者たちをさえぎることなくフィナーレを支配するのだ。
滅多に演奏されないシューマンの「幻想小曲集」は、後期の作品番号を与えられてはいるものの、この作曲家が初めてピアノ三重奏という形式に挑戦した作品である。アルゲリッチ、クレーメル、マイスキーの演奏は、味わい深さ、技巧性ともに申し分ない。(Stephen Wigler, Amazon.com)