基本書っぽくない基本書
★★★★★
ある程度回した法科大学院生にとって,ものすごい魅力的な本だと思います。
担保物権の基本書定番となっている,道垣内先生の本に憧れていたのですが,ちょっと独特な自説や情報量に圧倒され,使いこなすのはまだ早いだろうと断念。
また,安永先生の本も素晴らしいが,もう少し担保物権単体で,情報量が欲しい。
と思っていたときに出会った本です。
自分がこれまで使っていた予備校本と比較します。
伊藤真の試験対策講座のような体裁で作られていますが,(同じ出版社なので)その内容は,しけたいを凌駕するものでした。
もちろん,しけたいのいいところである,色分け,判例のひきやすさ,右側の書き込みスペースは残しながら,しけたいよりも少し小さい文字で,情報が整理されています。
特に,判例の日付が青なので,ぱっと一目でわかりやすいので,マーカーを引いて自分用にアレンジする手間も省けてよいかと。
さらに,重要と思われたり,判決文の文章全体に色が塗ってあり,メリハリがきいています。
非常に有り難かったのが,調査官解説やジュリスト解説が含まれており,最近の議論の流れがスムースに理解できること,道垣内先生はじめ高木先生など様々な学説を引用し,その頁まで記載されていることです。
それによって,道垣内先生の良さや独自性も俯瞰しながら理解することができた上に,一般通説を理解するのに役立ちました。
なかなか執行手続もイメージしにくいですが,その点も少なからずフォローされており,学習に役立つと思います。
基本書アレルギーの方や,しけたい使用者には,なじみやすいでしょう。
ちょっと独特すぎます。
★★☆☆☆
先の方のように担保物権についてある程度すでに修得している方ならば、
参考書の一つとして読む価値もあるのでしょう。
また、山本教授の講義でこれを教科書として使う分にはスムーズに
勉強できるので問題はないのかもしれません。
しかし、一般にはクセが強すぎてとうていおすすめできません。
・まず、担保物権法と民事執行が分離してしまっているのが期待はずれです。
クロスオーヴァーさせて同時に学んでこそ画期的といえるでしょう。
・担保物権法がB5版で270頁というサイズは、初学者にはやや重い。
・シリーズ考案者でもある小林教授の十八番である、
“解説→論点→ケースの三段階構成 + ユニット制” が
あまり功を奏していない。流れが悪いので普通に説明してほしいです。
・失礼ながら、小林教授はやや粗製濫造の感がありますし、
山本教授も一般的な認知は低い。信頼感はそんなにありません。
民法と民事執行法を合体させるという試みは悪くないのですが、
ユニット制を排し、ページ数そのままにA5版にサイズダウンするなど、
もっと普通の本として出してほしかったです。
担保物権法プラス民事執行法
★★★★★
従前の担保物権法のテキストにはない特徴として、1民事執行法の解説が第26講から第31講まで70頁ほど加えられている。2図解が多用され手続きの流れと担保物権の説明がリンクされている。3ケースの説明の文章を読み解くことで民事法の答案の書き方がある程度マスターできるように配慮されている、等をあげることができる。この分野を理解してもらうとなると、どうしても民事執行法の基礎知識が必要で、既存のテキストでは民事執行手続の説明が小出しにされていて、かえってわずらわしかった。その種のわずらわしさは感じない。著者の小林教授は旧司法試験の順位発表がなされていたころの最上位合格者で三カ月博士の門下生。民法の教え方も格段にうまい人である。山本教授は民事執行法分野の専門家。信頼できる法科大学院志望者向けの教材。